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出来損ないと呼ばれた巫女は、守り神となった妖に溺愛される。  作者: 文字書きA


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第九二話:神祇省(中編)

そこは4階建ての、レンガ(づく)りの建物だった。ベージュ色の壁と、薄緑色の屋根。建物の形は長方形に近く、入り口には扉がない。外から見えるのは、4本の柱に支えられた屋根と、その奥に引かれている赤い絨毯(じゅうたん)だけだ。警備員の姿はない。だが。琴葉(ことは)の目には、建物全体を包む結界が見えた。


「ここが、お父様とお母様が働いていらっしゃった場所なのですね」


建物を見上げて、彼女が呟く。側にいる玲哉(れいや)が、目を細めた。 


「そうですね。……この国にとっても、重要な機関の1つです」


神祇(じんぎ)省に所属する術者は、人ではないモノから人間を守るために働いている……ということに、なっている。少なくとも、表向きは。


「……行きましょうか」


絨毯に沿()って、佐藤が奥に進んでいく。彼の声には、わずかな苦みが混じっていた。神祇省は国の中枢(ちゅうすう)に近く、権力争いも激しい場所だ。そのことを知る男にとって、憧れに目を輝かせている琴葉の姿は(まぶ)しすぎて、直視できるものではなかった。上司の背を追いながら、焼津(やいづ)は苦笑する。


「お2人も、どうぞこちらへ。応接間は複数ありますが、土御門(つちみかど)さんがいらっしゃるなら1階でしょう。ご案内します」


「……あ、はい。ありがとうございます」


事情を知らない琴葉は、その言葉に(うなず)いて、玲哉と共に足を進める。広い廊下を何度か曲がって、やがて2人は大きな扉の前に()いた。佐藤が黙って扉を押す。両開きの扉の奥には、(ほが)らかな笑みを浮かべる青年が立っていた。長い黒髪を1つ結びにした彼は、髪と同色の瞳を光らせて、人好きのする笑みを浮かべる。


「いらっしゃいませ。私は土御門(らい)。土御門家の跡取りで、神祇省の長官でもあります。玲哉さんとは、何度かお会いしたことがありますが……あなたには、初めてお目にかかりますね。桜花(おうか)琴葉さん」


天井が高く、空間も広い。壁も床も、真っ白な部屋。その中央に置かれた丸い机の横に立って、男は右手を差し出した。琴葉は戸惑いながら、彼の手を取ろうとする。それを(さえぎ)るように、狐が定位置から飛び降りた。


人形(ひとがた)を送りこんでおいて、よく言うね。本当に面の皮が厚い人間だ」


「……おや。いったい何のことでしょうか」


土御門と名乗った男は、暁明(ぎょうめい)の青い目を見返して、笑みを深める。


「確かに私は人形を(あつか)うこともできますが、今回は使っていませんよ」


「嘘だ」


「本当ですとも。……それとも何か、証拠でも? その人形、実物は存在しているのですか?」


「……それは」


男の問いに、神は言葉に詰まってしまう。気に(さわ)ったというだけで、狐火で消し炭にしたことを()やんでも、もはや後の祭りだった。

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