第八五話:葬儀、2日目・続(前編)
2人分の骨壷に蓋がされて、骨上げが終わる。琴葉は白い壷を見つめた。八葉が苛立って、声を上げる。
「いつまでも辛気臭い顔をしないで。死んだ人は戻らないのよ」
「分かっています」
娘は硬い声音で答える。側にいた神々が、八葉を睨んだ。底の見えない眼差しに、彼女はたじろぐ。
「……と、とにかく! お墓に遺骨を収めに行くわよ。サッサとなさい」
言い捨てて、彼女は骨壷を1つ持つ。琴葉は残された壷を抱えて、その跡を追った。小さな狐が、呆れたようにため息をつく。
「……どこまでも、自分のことしか考えないのか。どうしようもない人間だな。まあ、周囲が窘めないのも悪いけど」
彼はそう言って、足早に通り抜けていく参列者たちに目線を向ける。彼らは意図して、琴葉を見ないようにしていた。その姿が見えなくなる頃に、宵闇が鋭い声で言う。
「琴葉。大丈夫だ。お前には俺とアキがいる。……玲哉もな」
彼の言葉に、彼女は小さく頷いた。その足取りは重く、少しの距離でも移動には時間がかかったが、彼らは指摘しなかった。代わりに、帰りの車に乗る時の、八葉の視線は厳しかったが。隣にいる神々が目を光らせていたことで、琴葉は何とか乗りきれた。車の運転席に座るのは、八葉の夫。彼女にとっては義理の叔父に当たる人物だったが、婿養子である彼には、大した発言権もなく。結局、先祖代々の墓に着くまで、車内は気まずい沈黙に支配されていた。神式の墓は、仏式と違って墓石の先端が尖っており、表面には「桜花家の奥都城」という文字が書かれている。見慣れたその場所の一角、竹としめ縄で囲われた区域に、父母の骨を埋めながら。琴葉は黙って目を伏せた。そして、2人の名前が記された旗をその場に立てたところで。
「……でもさあ。神様がここにいるのに、神様に捧げものをするって、不思議だよねえ」
沈黙に耐えられなくなった叔父が、呑気な調子で口を開いた。八葉が夫に、責めるような眼差しを向ける。
「桜花の婿なのに、相変わらず分かっていないのね。ここにいらっしゃる暁明様と、私達がお祭りしている暁明様は、同じようで違うものです」
「……や、で、でもさ……。神様、なんだろ? 同じじゃない?」
夫婦の会話に、琴葉は困り顔になる。彼女の叔父は、術師とは何の関わりもない一般人。何度説明されたとしても、理解できないのは仕方がないと。思いながらも、夫婦のやり取りには口を挟まず。彼女は1人、父母の魂が安らげるようにと、墓の前で手を合わせ続けていた。




