第八四話:葬儀、2日目(後編)
そんな話をしている間に、車は火葬場に到着した。霊柩車から下りた琴葉は、足元を覆うアスファルトを見ながら、宵闇と一緒に歩く。
「……いいか、琴葉」
その道中で、彼は小声で呟いた。
「ここにいるのが辛いのなら、いつでも連れていってやる」
「……どこに?」
「ここではない高み。神の世界に」
女が足を止めて、彼の方を見る。赤い瞳と目を合わせて、彼女は震える声で聞いた。
「……私、1人で……?」
「いいや」
肩口から、声が聞こえる。甘く優しい、神の声が。
「玲哉も居るから大丈夫。君は1人ぼっちじゃないよ」
琴葉はその言葉を拒めなかった。心臓の鼓動が、速くなる。
「……ごめん、なさい。少しだけ、考えさせて……」
掠れた声で、彼女が返す。神々はそれを聞いて、楽しげに笑った。
「勿論だよ。ゆっくり考えて、答えを出すといい。どちらを選んでも、僕は君の味方になるから」
耳から入った狐の言葉が、頭の中で反響する。そんな感覚に襲われて、彼女はフラリとよろけた。その体を、宵闇が支える。
「……おっと。危ないな。満足に歩けないようなら、肩を貸すが?」
「……いいえ。平気です」
女はそう言いながらも、男から離れようとはしなかった。縋るように、その腕を抱える。彼はそんな彼女を見て、笑みを深めた。ゆっくりと、同じ速度で2人は歩く。火葬場の入り口を抜けて、廊下を進み、やがて炉の前に着く。そこには先に、参列者たちが来ていた。
(……何だか数が少ないような?)
琴葉は周りを見渡して、首を傾げた。大広間にいた時と比べると、明らかに人が減っている。佐藤たちの顔も見えない。そう思って、不思議そうにする彼女を見て。宵闇は耳元で囁いた。
「葬場祭は終わったからな。身内以外は、帰ったのだろう。ここにいるのは、桜花の家と縁深い者だけだ」
神の言葉で、女の心細さが強まる。炉の扉が開かれて、2人分の人骨が出てきた。
「琴葉さん。何をなさっているんですか。早く、骨上げを」
八葉に急かされて、彼女は清めの塩を両手に擦りこんでから、箸を手に取る。焼かれて面影が無くなった両親と向かい合って、彼女は足先の骨を箸で摘んだ。
(目眩が、する)
琴葉は震える手を抑えながら、白い欠片を骨壷に入れた。横に立っている宵闇が、彼女に話しかけてくる。
「無理をするな」
彼の声は、いつも以上に柔らかかった。八葉が眉をひそめたが、流石に神には意見もできず、ため息をつく。男は気にせず、琴葉の代わりにほとんどの骨を拾い集めた。




