第八三話:葬儀、2日目(中編)
しばらくして、八葉が弔電を読み終わる。
「続けて祭詞を奏上します」
淀みのない声に、琴葉は慌てて前を見た。彼女の叔母は、昨日と同じ祭詞を唱えつつ、玉串を用意する。
(……もう、お別れなんだ)
滞りなく進む儀式の中で、彼女は置いていかれたような気持ちになる。並ぶ棺の数は2つ。そう。悪魔と契約し、暴走した青葉には、別れの言葉すらない。
(あの子の遺体は、残っているのに。どこに行ったかも分からないなんて……)
それがたとえ抜け殻でも。同じように見送られてほしかったと思って、女は俯く。そうしている間に、大部屋の扉が開かれて、棺が運び出されていった。彼女の耳元で、宵闇が告げる。
「そろそろ火葬場に行く時間だ。歩けるか?」
琴葉は目を伏せて、無言で頷く。部屋を出て、父母の棺が収められた霊柩車に向かいながら、彼女は小声で問いかけた。
「暁明様は、青葉がどうなったか、ご存じですか?」
「……ああ。一応、神の目で見て、知っているよ。先に火葬されて、共同墓地に埋められたと」
青葉の名を耳にして、狐は複雑な顔をしつつ答える。女は下を見ながら続けた。彼女と宵闇を乗せた車が、ゆっくりと走りだす。
「同じお墓にすら入れないなんて。あの子がしたのは、それほど大きなことだったのですか?」
「さあ、どうかな。歴史上、悪魔の甘言に惑わされた人間自体は多かったとは思うけど。青葉の扱いに関しては、体面を保つという意味が大きいだろうね。あれでも桜花の跡継ぎ兼巫女として、有力視されていた娘だから。騒動を起こした、その責任を取らせたかったんだろう」
「……責任って。あの子は亡くなったのですよ?」
彼女の瞳に、非難の色が見える。暁明は淡々とした声で返した。
「僕じゃないよ。これは八葉の考えだ。……昨日は、その場を収めるためにああ言ったが、彼女は本家に最も近い。僕が介入しなければ、桜花を継ぐのは、彼女の息子になるだろう。その時、誰にも文句を言わせないように……あの女は、今から布石を打っているんだ」
彼の話に、琴葉は言葉を失った。後部座席に座っている宵闇が、苦々しげな顔をする。
「……どちらの家も、利を得ることには敏感だな。人間というのは、これだから」
呆れ果てた声に、女が戸惑う。定位置にいる狐が、ニッコリと笑った。
「ああ、大丈夫。君と……あと、そうだね。玲哉は別だ。……それに好きでも嫌いでも、正しい形で願うなら、力は貸すよ。僕たちは妖ではなく、神だからね」
その言葉に、琴葉は目を見開いた。二柱の神々は、当然のような顔をしている。自由に見えても、彼らは神という在り方に縛られているのかもしれないと。彼女はその時、初めて思った。




