第八十話:葬儀初日・続(前編)
参列者が全員、机に玉串を置いた後。八葉は白木の板が同じ木製の台に差し込まれた物……霊璽を取り出して、部屋の明かりを消した。薄暗い部屋の中に、先程と同じ祝詞が響く。暁明はため息をつきながら、尻尾を少し動かした。白い霊魂が2つ。棺の中から抜け出して、霊璽に重なる。
(……あれは。お父様と、お母様?)
琴葉は声を上げそうになり、慌てて自分を押し止める。隣にいた宵闇が、ニヤリと笑った。
(アキが対処したのだろう。気にするな。死者を導くのも、俺たちの役目だ)
空から降ってきたかのように。彼女の脳内に、彼の声が届く。それと同時に。部屋に明かりが戻ってきた。
「……皆様。本日はありがとうございました。明日のこともありますので、本日はこの家にお泊りください」
「は。橘花から人を借りておいて、よく言うものだ」
締めの言葉を聞いて、玲哉の祖父……玄一が鼻で笑う。
「どうせ、長女以外の跡継ぎなど居ないのだろう。この際だ。家ごと貰ってやってもいいが」
「な……!」
八葉が声を上げかける。部屋の中にいた人々は、言葉を失った。一触即発の空気の中で。最初に動いたのは、神だった。狐が床に飛び降りて、2人の間に割り込む。
「そこまでだ。心配しなくとも、桜花のことはこちらで何とかする。……僕に跡継ぎを選んでほしいというのなら、そうするとも。その時は当然、公平な判断を下すよ。琴ちゃんは橘花のお嫁さんになるからね。この家からは、出ていくことになるだろう」
室内は静まり返っている。数人ほど、立ち上がりかけていた参列者たちが中腰のまま、戸惑ったような顔で動きを止めていた。宵闇は後ろを振り返り、告げる。
「神葬祭は終了した。既に山野が、客室の清掃を済ませている。お前たちがここに残る意味はない。出ていきたいのなら、好きにしろ」
彼に促されて。固まっていた客たちは、やっと動いた。足早に部屋を出ていく者たち。その波が過ぎ去ると、部屋は一気にスペースが空いた。端の方に、ただ2人。佐藤と焼津だけが、それまでと同じように、背筋を伸ばして座っている。
「……くだらんな。人がせっかく、気を使ってやったというのに」
「……頼んでおりませんが」
そして、参列者の数が少なくなっても。八葉と玄一は、変わらず睨みあっていた。琴葉が正座したまま、落ち着かない様子で周囲を見る。宵闇はスッと立って、その手を引いた。
「お前はここだ」
そして、彼は彼女を佐藤たちの側に座らせる。焼津が無言で、斜め前に席を移した。
「……すみません、ご迷惑を」
琴葉は3人に囲まれる位置で、体を縮こまらせながら呟く。彼らは気にする素振りも見せず、彼女のことを受け入れた。




