第八話:どうしたいか、どうなりたいか(中編)
その、穏やかな空間に。琴葉をここまで案内してきた召使いが、扉を開けて割り込んだ。
「失礼します、玲哉様。お客様がお待ちです。すぐに客間にお越しください」
「……あ、はい! 分かりました、すぐに行きます」
声をかけられた少年は、慌てて立ち上がり部屋を出ていく。
「すみません、琴葉さん。続きは、また後で」
最後にそんな言葉を残して。彼は召使いを連れて去った。残された琴葉は、開いたままの扉に手をかけながら呟く。
「玲哉さんは、きっとお忙しいのでしょうね」
「……手伝いたい?」
狐の声に、女が頷く。小さな獣は、俊敏な動きで床へと下りて、振り返った。
「なら、僕についておいで」
彼はそう言って歩いていく。その後を追って、娘も廊下に踏み出した。引き戸を閉めて、彼女はゆっくりと歩みを進める。客間には、すぐに着いた。その中からは、微かに人の声が聞こえている。
「……さて、まずは示そうか」
障子の前で、狐は人の姿を取る。彼は迷わず戸を開けた。室内にいた3人……玲哉と見慣れぬ男女2人が、揃って彼の方を見る。
「僕は神。そして、ここに居るのは僕の巫女だ。何の話か知らないけど、僕たちにも聞かせてくれるよね?」
淡い金色の光を纏って、神の化身はそう告げる。そして狐の姿に戻り、机の上に乗って座った。
「……あ、あの。すみません、暁明様が……」
彼の後から、琴葉は恐縮した様子で客間に入る。似たようなビジネススーツを着た客のうちの1人、男性の方が真顔で言った。
「構いません。あなた方にも関係する話ですので。……では改めて説明しますが、本来であれば1人で済むような調査に、桜花家が無理やり割り込んできました。明日の仕事には、青葉様も同行します」
その言葉に、琴葉は目を丸くする。玲哉は苦虫を噛み潰したような顔で返した。
「……僕、あの人は苦手なんですが」
「そう仰られましても、政府としては桜花家に逆らうわけにもいきませんので」
淡々とした声で言いながら、男は横目で狐を見る。
「ですので、あなたも。橘花の力で、術師を1人加えてみては如何です? 申請は、ここで私が受け付けましょう」
「……そうするしかないか」
玲哉が深いため息をつく。
「3人も要らないと思うけれど、背に腹は代えられない。……琴葉さん。僕を助けてもらえますか?」
「……あ、は、はい! 私で良ければ……!」
彼女はまだ、状況を理解しきれていない。けれど玲哉の助けになりたい一心で、即座に答える。それを受けて、男は手元の書類を捲った。




