第七八話:葬儀初日(中編)
「失礼します、玲哉様。お客様がお集まりになりました。……それで。八葉様が、すぐに神葬祭を執り行うと仰られておりまして……」
2人が奥に入ってから、1時間ほど経った後に。山野は彼らを呼びにいった。その表情には、僅かに疲れが残っている。
「分かりました。後は僕たちに任せて、あなたは少し休んでください」
その原因をすぐに察して。少年は立ち上がり、目を閉じる。それは一瞬のことで、次に目を開けた時、そこには赤い宝石のような瞳が輝いていた。
「……え?」
琴葉が驚いて見守る横で、彼の背丈と髪が伸びる。銀色の真っ直ぐな長髪が、明かりに照らされて輝いた。定位置にいた狐が、彼女に向かって笑いかける。
「まあ、当然だね。玲哉は若い分、侮られているから」
「そう、なのですか?」
掠れた声で、女が呟く。目の前にいる男……宵闇は、彼女を見下ろしながら告げた。
「そうだ。俺でなければ、お前を守りきれないと。奴は判断して、自ら内に潜った。……行くぞ、琴葉。お前には、俺とアキがついている」
言葉と共に、伸ばされた手を取って。彼女は頷き、動きだした。神に守られるような形で隣に立ち、導かれるままに足を進める。深々と頭を下げた山野の前を横切って、儀式の準備が整えられた大部屋へ。細長い廊下を進み、琴葉は部屋の前に到着した。急造の手水場で手と口を清めながら、彼女は心を落ち着けた。そして濡れた手を懐紙で拭き、彼女は大部屋の障子を開ける。
(……っ)
大部屋には、たくさんの人がいた。見たこともない人の数に、女は息を飲む。部屋の中央、祭壇の手前に座っている参列者たち。その全員が、彼女を見た。好奇や嫌悪に、侮蔑が混ざった複数の視線。それに臆して、彼女は足を止めてしまう。だが。
「案ずるな」
真横から、力強い声が聞こえてきて。琴葉は震えながらも、前に進めた。それで彼女は、ようやく気づく。列の後ろ。見えにくい位置から、心配そうな目を向けている人たちに。
(……佐藤さんと、焼津さん。来てくださったんだ)
この場には、自分を案じてくれる人もいる。それを実感して、彼女は少しだけ、気が楽になった。参列者の側を、音を立てないように歩いて、前に行く。喪主である彼女の席は、空けられていた。
「……やっと来たのね。遅かったじゃない」
刺々しい八葉の声。今の琴葉は、それにも何とか耐えられた。無言で頭を下げながら、彼女は空いた席に座る。八葉は思惑が外れて嫌そうにしていたが、それ以上のことは言えなかった。彼女の側に、当然のように控える神々が、目を光らせていたからだ。こうして一触即発の空気の中で、神葬祭は始まった。




