第七七話:葬儀初日(前編)
その翌朝。琴葉と玲哉は玄関に立ち、揃って来客を出迎えた。暁明は何事も無かったかのように、2人の近くに寄ってくる。
「……おはようございます、叔母様」
「ええ、おはよう。……それにしても。電話で聞いた時は、とても信じられなかったけれど……。本当に、神様に選ばれたのね。あなたのような出来損ないが」
誰より早く来た中年の女性は、頭を下げた琴葉に向かって、開口一番吐き捨てた。狐は彼女の言葉に眉を上げ、即座に返す。
「久しぶりだね、八葉。僕の巫女を値踏みするなんて、君も偉くなったものだ」
神の言葉に、八葉と呼ばれた女性がたじろぐ。彼女は何か言おうとしたが、その前に。彼に目線で制された。土間が居心地の悪い沈黙で満たされる。
「……まあまあ。こんな所で立ち話もなんですから、奥にどうぞ」
少しして、少年が八葉に声をかける。彼女は不満げな表情を浮かべながらも、黙って彼に従った。靴を脱ぎ、家に上がって。彼女は脇に避けた2人の前を通って、勝手知ったる足取りで客間に向かう。その背を見送って。彼は小さく、ため息をついた。
「……期待はしていませんでしたが、実際に見るとこたえますね。桜花のご親戚は、あのような方ばかりなのですか?」
琴葉は無言で俯いた。その肩に手を置いて、玲哉は彼女を抱き寄せる。
「……すみません。今の言葉は失言でした。あなたを責めるつもりでは……」
「分かっていますよ」
顔を上げて、女は表情を和らげる。少年はそれを見て、安堵の息を吐いた。その瞬間に、インターホンが鳴る。2人は慌てて、姿勢を正した。引き戸を開けて入ってきたのは、彼らにとっても見覚えのある老人。少年の祖父に当たる人物だ。
「出迎えか。結構なことだ」
それだけ言って、彼は2人には見向きもせず、家に上がる。挨拶もなく去っていく姿に、玲哉は頭が痛くなって、額に手をやった。
「……人のことは言えませんね」
その言葉に。琴葉は堪えきれず、笑みを溢した。彼女の笑顔につられて、彼も口の端を緩める。狐は下から、2人を見上げた。
「……どうでもいいけど。このままここで、客を全員出迎えるつもり? この先は、女中に任せてもいいだろう」
「それもそうですね。……では、山野さん。後はよろしくお願いします」
神の言葉に。少年は同意し、手伝いを呼ぶ。そして、程なくして現れた老女にその場を任せて、彼は彼女の手を取った。
「では、琴葉さん。僕たちは空き部屋で、時間までお話でもしていましょう」
「……はい」
目を見交して笑い合い、2人は連れ立って奥に向かう。狐はつまらなさそうな顔で、その後に付いていった。




