表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
出来損ないと呼ばれた巫女は、守り神となった妖に溺愛される。  作者: 文字書きA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/99

第六六話:悪夢

真っ暗な闇の中から、声だけが聞こえる。


『あなたには何もできないんだから、礼儀作法だけはしっかりなさい』


『……はい、お母様』


『分かっていると思うけれど、あなたはいつか、お嫁にいくのよ。嫁ぎ先で笑われないように。常に完璧を心がけなさい』


『はい。……頑張ります』


明らかに苛立(いらだ)っている女性に、小さな声で返す子供。それは昔の、琴葉(ことは)だった。


『ねえ、お父様。お姉様は、いつお家から出て行くの?』


『……さあ、いつになるかは……』


『あの人には力がないから、桜花(おうか)を支援してくださる方に嫁がせて、結びつきを強めるのでしょう? 早くなさらないと、貰い手が無くなるのではありませんか?』


『……青葉(あおば)。そんなことは、お前が気にすることではない。琴葉にはしかるべき時に、私の口から伝えておく』


遠くの方から、別の声が聞こえてくる。通りがかりに小耳に挟んだ、父と妹の会話。浮かんでは消える過去の映像を見続けて、琴葉はようやく気がついた。


(……そうか。これは、夢なんだ)


ずっと心に刺さっていた、家族との思い出。良いものではないことは理解していた。それでも少しは、愛されていると思っていた。否。思いたかった。


「琴葉さん」


ふと気づくと、側には少年が立っていた。薄い茶色の、くせっ毛が特徴的な男の子。


「大丈夫。僕はあなたの側にいますよ。……今も」


そう言って。彼は小さな手を伸ばし、琴葉の手を握った。


「……玲哉(れいや)さん」


彼女は自分を押さえきれず、彼を見つめて口を開いた。


「ずっと一緒にいてください。……お願い。置いて、いかないで……」


ゆるゆると意識が浮上する。目を開けると、見慣れた和室の天井が視界に入った。屋敷の空き部屋。


「……あ。ここは……」


左手に、他人の熱が伝わっている。それを感じて、彼女は首だけを動かして横を見た。枕元には、彼がいる。


「……玲哉、さん」


「こんばんは、琴葉さん。……お疲れでしょう?」


「いえ、あの。……手を」


「ああ、これですか。あなたがうなされていたので、思わず……ご迷惑でしたか?」


「……いいえ。嬉しかったです。とても」


琴葉は体を横向きにして、玲哉の手を包むように右手を重ねた。そのまま、彼女は愛おしむように彼の手を握る。


「ありがとうございます、玲哉さん。……もう少しだけ、このままにしていてもいいですか?」


「……勿論です」


笑みを深めて、少年もまた、右手を伸ばす。両手を繋いで、女は満足そうにした。枕元で見守っていた小さな狐が、初めて玲哉の肩に乗る。その姿を見て、彼女は気が抜けたような笑みを見せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ