第六四話:後始末(前編)
しばらくして、屋敷の外が騒がしくなる。複数の足音に混ざって、聞き覚えのある声が響いた。
「お前たちはご遺体を運べ。彼らには、私から話す」
琴葉は涙で滲んだ瞳を、入り口の方に向けた。宵闇が起き上がり、彼女を守るように前に立つ。門を通って踏み込んできたのは、スーツ姿の部下たちを引き連れた、佐藤と焼津だった。
「お久しぶりです、琴葉さん。……ああ、構いませんよ。そのままで」
起き上がろうとした女を制して、佐藤は深々と頭を下げる。
「私は直接、お礼が言いたかっただけです。部下を助けていただいた上に、外つ国から入り込んだ悪魔を鎮めていただき、誠にありがとうございました」
「それは君たちのためじゃない。その女にも、伝えたはずだよ」
「確かに報告は受けています。ですからこれは、私個人の……」
「言い訳は要らない。用件だけ言って。……お前たちは、まだ僕たちを使おうとしているんだろう。違う?」
受け答えの途中で、暁明は冷ややかな声で問いかけた。佐藤が首を横に振る。
「――いえ。けして、そのようなことは」
「嘘だね。お前は上から、厳命されているんだろう。僕と宵闇を逃がすなと」
役人の目が狐に向く。視線がぶつかって、火花が散った。
「……あの」
2人の間に挟まれる形となった琴葉は、戸惑いながら口を開く。
「それは流石に邪推では……? 逃げるも何もないでしょう。お2人は、この国の守り神でもあるのですから」
その言葉を聞いて。佐藤は目を伏せ、神々は冷ややかな表情になった。
「……そうだね。神は本来、あらゆる場所に存在し得る。そういうモノだ。だけど人間……それも、不可思議な出来事に疎い者には、目に見える形が全てなんだよ。政府高官なんてのは、その典型例だ」
狐の言葉を、役人は否定しなかった。女は黙りこんでしまう。居心地の悪い沈黙の中で、佐藤の後ろにいた焼津が、淡々とした声で告げた。
「お偉方の考えは別として、ひとまず場所を移しませんか。せめて家の中に入って」
「……それは、そうですね」
彼女の指摘に、琴葉が頷く。宵闇は、無言で彼女を抱き上げた。そのまま、彼は縁側から家に上がる。大きな狐も、その後に付いていった。一方で。焼津は鉄面皮のまま、玄関に回ってそちらから入ろうとする。その背に向かって、琴葉は掠れ声で言った。
「お2人もどうぞ、こちらから。……今は、非礼だと怒る人もおりませんし」
その言葉に込められた重みを、役人たちは無言で受け止め、頭を下げて彼らに続く。4人と1匹は、そこから応接間まで、特に会話をせずに進んだ。




