表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
出来損ないと呼ばれた巫女は、守り神となった妖に溺愛される。  作者: 文字書きA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/94

第五八話:温泉旅館(後編)

「……玲哉(れいや)さん。その、良かったら……」


しばらくして。顔を真っ赤にした彼女は、部屋に併設(へいせつ)された露天風呂の方を見ながら言った。


「一緒に入っていただけますか……? 私は作法が分からなくて」


「……ええ、もちろん」


少年は笑って(うなず)き、彼女と共に更衣室に入る。その後を追った狐は、目を細めて深い息を吐いた。


(……少しでも琴ちゃんの体を見ようとしたら、燃やしてやろうと思ってたけど)


そこは心得たもので、彼はサッサと服を脱いで、先に風呂場に行っている。一方琴葉(ことは)は、時間をかけて(はだか)になり、胸に手を当てて深呼吸していた。


「……ねえ、琴ちゃん」


その足元に立った暁明(ぎょうめい)は、彼女を見上げて口を開く。


「本当にいいの?」


「……はい」


彼女は真剣な顔をする。


「玲哉さんのことは、暁明様も認めていらっしゃるのでしょう? 何よりあの方の中には、宵闇(よいやみ)様がいらっしゃいます。だから間違いも起こらないと……」


狐は話が進むにつれて、妙な顔になっていった。やがて女は、不安そうに言葉を落とす。


「……あ、あの。何か間違っていたでしょうか」


「……いや」


彼女の前で。狐の体が段々と縮む。元の大きさに戻った彼は、尻尾をパタリと動かした。


「何でもないよ。君の言うことにも一理(いちり)あると、思っただけ。……それじゃあ、行こうか」


「……はい」


嬉しそうにする琴葉と共に、暁明は露天風呂の方に移動した。湯気で周囲が白く(けむ)る。硫黄(いおう)の匂いが強くなって、温泉に来たという実感が深まった。


「ここで体を洗ってから、お湯に()かるんです」


離れた場所から、少年の声が聞こえてくる。女はコクリと首を動かして、洗い場に座った。その横を通って、狐は先に湯に入る。


「……うん、いい湯だ」


水面に浮かんで、彼は微笑む。その目の前で、2人は体に付いた泡を流して、連れ立って風呂に体を沈めた。


「……温かい。それに何だか、ピリピリしますね」


「ここの温泉は酸性ですから。……なので、長湯は良くないと言われていますし、めぐり湯も(いまし)められているんですよ」


「へえ……。玲哉さんは、物知りですね」


感心しながら、琴葉はまだ明るい空を見上げた。昼からお風呂に入る贅沢を噛み締めて、彼女は柔らかい笑みを浮かべる。


「……ありがとうございます。私のために、ここまでしてくださって」


「僕自身のためでもありますから」


彼は相変わらず、穏やかな口調で言葉を返す。その返事は予想通りのもので、女は思わず笑ってしまった。


(私は本当に恵まれてる……)


目を閉じて、女は強張(こわば)った手足を伸ばす。その様子を、狐は黙って見守っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ