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出来損ないと呼ばれた巫女は、守り神となった妖に溺愛される。  作者: 文字書きA


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第五五話:出発(後編)

「……そうですね。お互い様ということで」


玲哉(れいや)の言葉に、琴葉(ことは)首肯(しゅこう)し、彼を見上げた。後ろで言い合う2人を乗せて、車はゆっくりと動き出す。


「……お客さん。お話が終わったんなら、行き先を」


「群馬県。草津の湯。創銅庵(そうどうあん)です」


渋い顔をする運転手に向かって告げ、少年は女の腰に手を回す。彼女はそれに(こた)えるように彼に密着して、その右肩に頭を置いた。


(……すっかり玲哉のペースだな)


同じ目線に立つことができると、彼は言った。どちらかといえば、それは彼女ではなく、神々に向けての言葉だと。暁明(ぎょうめい)は正しく理解していた。


(多分ショウにも伝わっている。……悔しいけど、確かにあいつの言うとおりだ。人なら琴ちゃんも緊張しない)


宵闇(よいやみ)が表に出てこないのも、玲哉が上手くやっているからだ。気を抜いている琴葉を見つめて、狐はそんな風に思った。草津まで、片道でも3時間近く。車窓の景色は段々と、見慣れた場所から未知の風景へ移り変わっていく。そして、女が無言で、けれど抑えきれない様子で外を気にしだすと。少年は、黙って彼女の手を離した。窓に張り付く彼女の横をすり抜けて、狐は彼と目を合わせる。


(わきま)えてるね。感心感心」


「……嫌われたいわけではありませんから」


残念そうにしていた玲哉は、そう言ったきり黙り込む。運転手は相変わらず、眉間にシワを寄せていた。


「高速、乗りますよ」


「お願いします」


短い会話の後に、彼は不審そうにルームミラーを確認する。


「……ところでお客さん。料金はちゃんとあるんでしょうね」


「カードで支払いますよ。できますよね?」


「はあ、まあ。あるなら構いやしませんが……」


「ご心配なく。僕はこう見えても、お金には困っていないので」


20代前半の若い女と、10代の少年。その組み合わせに、運転手が不安を(いだ)くのは当然のことだ。玲哉もそれは理解しているので、穏やかに笑って受け流す。ただ、琴葉の方は別だった。彼女は慌てて振り返り、口を開く。


「……あの」


「何も(おっしゃ)らないでください。大丈夫、大したことではありません」


その言葉を(さえぎ)って、少年は笑顔で念を押す。金額を聞かせてしまえば、女は絶対に気にすると知っていたから。


「……そうですね。こう言えばお分かりになるでしょう。僕の(せい)橘花(きっか)です。疑うのなら、身分証も出しますが」


その言葉に、運転手は納得したような顔をする。橘花の当主が16才であることは、この国では有名なことだった。そういえば2人を乗せた場所も、本家の前だったと思いだして。彼はハンドルを握った。

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