第四八話:妹の暴走(中編)
「宵闇様。お客様がいらっしゃいました」
しばらくして、召使いが呼びに来る。そして2人は、揃って応接間に移動した。
「どう、お姉様」
部屋の扉を開けると、そこには既に青葉が居た。彼女は巫女服を着て、傍らに控える狐を見下ろす。
「私も認めてもらえたのよ。当然よね。お姉様だけが特別だなんて、そんなこと、あるわけがないもの」
狐は何も言わず、無表情で座っている。琴葉は掠れた声で返した。
「……そう。それは、良かったわね」
「……なによ」
妹が姉を睨みつける。憎しみと妬みのこもった視線に、琴葉は息を飲んだ。青葉は胸を張って、話を続ける。
「そうやって、余裕ぶっていられるのも今のうちよ。私はここに、間違いを正しに来たんだから」
「……間違い?」
「そうよ。桜花の巫女になるのは私。そのために、お姉様の側にいる神様には、お帰りになって頂くの」
笑う少女は、心底本気で言っている。女はそれが恐ろしかった。
「……青葉、あなたは。暁明様に、危害を加えるつもりなの?」
「違うわ、お姉様。私はあなたに勝って、認めてもらうの」
彼女がユラリと立ち上がる。赤い口元から、力ある言葉が紡がれた。
「掛けまくも畏き暁の大神。過去の約定を果たし給へ。其の身を桜花の神器とし、我が敵を討つ為に力を尽くせと、恐み恐み白す」
唱え終わると、狐は桜の花びらを纏った風に包まれて、1本の刀に変わった。青葉は刀を迷わず抜く。その切っ先は、琴葉の側にいる大きな狐に向けられていた。
「……愚か者が」
真っ先に動いたのは宵闇だ。彼は数歩前に出て、姉妹の間に障壁を張る。目に見えない、結界の亜種。だが、それは抜き身の刃を受けて、ひび割れた。
「……腐っても巫女ということか。これでは、長くは保たんな」
舌打ちをした、彼の後ろで。呆然としていた琴葉は、頭を振って前を見た。
(……何をしているんだろう、私は。戦うって、決めたのに)
彼女には、青葉に言いたいことがある。そのためには、まず。この争いを終わらせる必要があった。目の前で割れ、砕けていく透明な壁。その奥に立つ妹の姿から、目を逸らさずに。琴葉は両手を胸の前で組んで、目を閉じた。
「掛けまくも畏き旭の大神。桜花の巫女が、恐み恐み白す。我が妹の勝手を諌めるために、神器を解き、力を元に戻し給へ」
心を決めて、口を開く。最初は暁明に。そして、次いで宵闇にも。思いを願いとして、言葉に出して伝える。
「掛けまくも畏き朔の大神。友たる神に力を貸せと、恐み恐み白す。我が身は桜花の巫女なれど、橘花の神たる貴方のことも、尊び崇めているが故に」




