第四七話:妹の暴走(前編)
朝食を終えて。2人は寄り添い、縁側に座った。停滞した、穏やかな時間が流れる。その中で、ふと。狐が渋い顔をした。
「……玲哉。悪いけど、今日の予定はキャンセルして」
「おや。それは構いませんが……」
琴葉の横で、幸せそうに笑っていた少年が首を傾げる。
「何か、問題でも?」
「青葉が暴走した」
淡々と言って、神は目を伏せる。
「本家はダメだ。もう、取り返しがつかなくなっている」
2人の話を聞いて、琴葉の表情が曇る。狐は深いため息をついた。
「……僕はここまでとは思わなかった。これでは、桜花の名を汚しているようなものだ。見直すも何もない。失望が深くなるだけだよ」
「……そんな。いえ、そもそも。どうして急に、本家の事情を? 神の目で、ずっとご覧になっていたのですか?」
「――いや。君が出ていってからは、視ていない。気分が悪くなるだけだったし。……だけど宵闇の忠告で考えを変えて、あちらにも端末を置いたんだ。その情報を、共有した」
呆然と呟く女に向かって、暁明は少しバツが悪そうな顔で返す。そして彼は、床を見ながら話し続けた。
「君も知っているだろう。神は分かれても同じであり、その根は深いところで繋がっている。……君が羨ましいと。どうして同じ扱いではないのかと、嘆いていたから。僕は応えてやったんだ」
「……なるほど。あなたの温情を、特別扱いと勘違いしたのですね。つくづく、救いようのない方たちだ」
玲哉は彼の話を聞いて、納得した。そして琴葉を残して、立ち上がろうとする。その服の裾を、彼女は掴んだ。
「待ってください」
少年の目が、女を見据える。澄んだ紅い色の瞳を、真っ向から見返して。琴葉は言った。
「私も同席します。……させてください」
しばらくの間、2人は黙って見つめあう。そして。先に折れたのは、彼の方だった。
「……お前にとっては辛いだろうに」
「覚悟の上です」
少年の背と髪が伸びる。朝の日差しにも負けない、月の光を集めたような白銀が、成長した彼の背を覆った。
「……大丈夫、堂々としていて」
いつの間にか大きくなっていた狐が、琴葉の側に寄り添って告げる。
「向こうにいるのも僕だ。本質は変わらない。青葉に付き合わされて、辟易してるよ」
神の言葉に、彼女は無言で頷く。妹がどう思おうと、姉として。言うべきことがあると思ったから、琴葉は神が相手でも引かなかった。その姿を、眩しげに見つめながら。宵闇は召使いたちを呼びつけて、準備をさせる。こうして彼らは、万全の態勢で来訪者を待った。




