第四四話:玲哉の変化(後編)
「……いいのかい、君」
「何がです?」
ニッコリ笑って、少年は女の顎を撫でる。彼女は気持ち良さそうに、目を閉じた。
「ん……玲哉さん……」
店員が、次の料理を運んでくる。彼女は男の姿と印象が変わったことに気づいて、首を傾げた。だが、そこは流石に接客業。タイやイカ、マサバなどの刺し身が乗った舟盛りを机に置いて、何も言わずにすぐに去る。その間も、玲哉は我間せずといった顔で、琴葉を愛で続けていた。
「琴葉さん、可愛い……。はい、あーん」
箸で魚を摘んで、少年は女の口に運ぶ。彼女は大人しく口を動かして、気が抜けたような笑みを見せた。
「……美味しい」
「ふふ、そうですか? 良かった」
楽しげに呟き、彼は琴葉の世話を焼く。横にいた狐は、深いため息をついた。
「……まあ、邪魔をしないならいいか」
少年には、もう彼女しか見えていない。それは彼にとっても、都合の良いことだった。
(琴ちゃんにも、何も言わないみたいだし)
女の目を覚まそうとしないなら、それでいい。否。それどころか、玲哉はむしろ積極的に、琴葉を夢に落としていた。
(これはショウが許すわけだ)
少年は神々と同じか、それ以上に。彼女に執着し、手に入れようとしている。その姿に、思うところはないこともないが。
「……琴ちゃん。楽しい?」
「……はい」
彼の腕の中で、琴葉がふわふわと笑っていたから。暁明は好きにさせてやることにした。宵闇も同じ思いだろうと考えて、彼はただ、女に寄り添って目を閉じる。
(……良かった。暁明様も、許してくれてる)
少年はそれを見て安堵する。神が本気で引き裂こうとするのなら、彼には抗する術が無かったから。
「……玲哉さん」
女が笑顔で、箸を動かす。
「お返しです。……どうぞ?」
「……っ、ああ。ありがとうございます、琴葉さん」
彼女は彼にしてもらったことを、そのまま返した。その姿が愛おしくて、玲哉は笑みを深める。
「……うん、美味しいですね」
「でしょう? 玲哉さんにも、味わってほしくて」
「……ありがとうございます。でも、今夜の主役はあなたですよ、琴葉さん」
「……? そんな、誕生日でもないのに……」
「ふふ。あなたはきっと、お誕生日のお祝いも、ずっとしてもらっていなかったのでしょう? その分を取り戻さないと。今日だけでは、とても足りません」
熱を込めて、少年は告げる。その言葉を聞いて、琴葉は戸惑ったような顔をした。
「…………よろしいのですか?」
彼は黙って、頷いた。それで女も納得する。2人と1匹は、こうして夜を過ごし続けた。




