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出来損ないと呼ばれた巫女は、守り神となった妖に溺愛される。  作者: 文字書きA


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第四一話:息抜き(前編)

同時刻。朱色に染まった世界で、狐が空を見上げる。


「……雨は止んだみたいだね。終わったかな」


「……? 雨、ですか?」


彼を乗せて歩く琴葉(ことは)は、不思議そうな顔をした。彼女の認識では、その日は一日中晴れていたから。


「うん、通り雨。人間の感覚では、そう思われる現象だろう。……こう言えば分かりやすいかな。要は、玲哉(れいや)の仕事が終わったってことだよ」


狐は笑って言葉を返す。女はそれを聞いて、顔を輝かせた。


「……では、夜には帰ってきてくださるのですね」


彼は答えず、笑みを深める。暖かな風が吹き抜けて、琴葉を包んだ。目を見開いた彼女の隣には、いつの間にか。銀髪の男が立っている。


「……なんだ。もう少し遅い方が良かったか?」


低い声で言って、彼は彼女に手を伸ばし、抱き寄せる。そして耳元で(ささや)いた。


「だとしたら、すまないな。……今日はどうしても、お前に早く会いたかったんだ」


目を丸くして固まる琴葉を抱え込んで、宵闇(よいやみ)は目を閉じる。小さな姿の暁明(ぎょうめい)は、からかい混じりの声で言った。


「そうだろうと思っていたよ。……で、どうなったの?」


仕置(しおき)は終わった。……が、効果の方は望み薄だな。誇り高いのも気が強いのも元からだろうが、それだけではない。ああも(かたく)なになるということは、親が関わっているのだろう。……そちらは俺ではどうにもならんぞ」


男は目線を上げて、狐を(にら)む。声をかけられた彼は、ばつが悪そうな顔をした。


「僕でも無理だと思うけど。……でも、そうだな。確かに意地を張りすぎた。本家の方も、見ておくよ」


2人の会話が理解できず、琴葉は脳内を疑問符で満たす。その顔を見て、宵闇は苦笑を浮かべた。


「……ああ、お前は気にしなくていい。こちらの話だ。それよりも今日はどうだった? 人の街に出てみて、楽しかったか?」


「……あ。それが、その、何も分からなくて……」


女は肩を落として(うつむ)く。朝のことは、彼女にとっては盛大な失敗だった。そのせいで店に入ることも躊躇(ためら)ってしまい、目的もなく街を回ることしか出来ていない。だが、そんなことを彼に説明できるはずもなく。代わりとばかりに、狐が簡潔に語った。


「それがさあ、聞いてよ。朝から何にも食べてないんだ、琴ちゃん。お腹が空いてるはずなのに、僕が勧めても要らないって言うし。ずーっと、この辺りを行ったり来たりするだけ。だから頼むよ」


「……そうか。このまま帰るのも手だが、せっかくの街だ。1つくらいは、楽しい思い出を持たせてやるべきだな」


男は旧友の言葉に頷いて、琴葉の肩を抱いたまま歩きだす。彼女は困惑していたが、それでも彼には逆らわなかった。

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