第三九話:制裁
同じ頃。青葉が繋いだ霊脈を見て、宵闇は深いため息をついていた。
「……勝手なことを」
彼は黒雲が立ち込める空に浮かび、地上に向かって手を伸ばす。その指先から放たれた雷は、過たず目標を貫いた。
「……きゃっ?!」
目の前に落ちた雷に、少女は驚き、空を見上げる。そして彼女は、神と目が合って固まった。
「……さて。答えてもらおうか、桜花青葉。お前は何をしている?」
「……な、何って」
それでも青葉は、積み重ねた自信を糧にして気丈に振る舞う。
「視察ですわ。何か問題がありまして? 今回は初めから、丁寧な仕事を心がけておりますが」
「そんなことは、見れば分かる」
冷たい表情で吐き捨てて、宵闇は彼女を睨みつけた。空は今にも、大粒の雨が降り出しそうな様子だ。
「だがな、青葉。お前は知っているはずだ。桜花と橘花は共に不可侵。相手の領域には、踏み込まないと定めていると。……だというのに、お前は何故、ここに来た」
「……それは……」
青葉は胸の前で片手を握る。
「……だって。暁明様は、お姉様のことしか見ていないから」
「あれは端末だ。奴もそう言っていただろう。神には時間も空間も関係がない。社にも神棚にも、我らは存在し、人を見守っている」
「それでも嫌よ。……だってズルいわ、あの人ばかり。生まれた時から特別だった? それなら私は? 私だって努力したのよ。お姉様と違って、実績もあるわ。……その差が理解できる方なら。宵闇様。貴方様なら、まだあの人とは出会ったばかりだから、きっと分かってくださるって」
熱に浮かされたような早口で言って、少女は空にいる神に、期待を込めた眼差しを向ける。だが、彼は苦い顔のままだった。ポツポツと雨が降り始める。雨足は次第に強くなり、道を歩いていた人々は、慌てて屋内に移動した。
「つくづく愚かだな、お前は。琴葉が俺達にとって特別なのは、その魂が美しいからだ。それは精神の清らかさに通じる。……青葉。お前は姉を疎み、避けているが、それこそ間違いだ。彼女を慕い、その在り方を見習えば、少しはマシになるだろうに」
神の手に、光が集まる。その別名は神鳴りとも言う、彼の怒りから発される火花。それを集めて、男は躊躇なく振り下ろした。閃光が少女の体に突き刺さり、彼女は声にならない叫びを上げる。
「これは仕置だ。定めを破ったお前への。命は奪わん程度に加減した。奴との取り決めもあるが、何よりも。琴葉に泣かれては困るからな」
呟いて、神はそれきり、興味をなくしたように去る。宵闇の姿が消えた途端に、雨は止み、空を覆っていた雲も晴れた。青葉は荒い息を吐きながら、地面に膝をつく。服も髪も焦げて、煤だらけになった彼女は。アスファルトの上で拳を握りしめて、悔しさと怒りに震え続けた。




