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出来損ないと呼ばれた巫女は、守り神となった妖に溺愛される。  作者: 文字書きA


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第三七話:お出かけ(中編)

早朝の屋敷は、静かだった。召使いたちも気を使っているのか、母屋では不必要に動かない。


「……お出かけですか。お気をつけて」


ただ、琴葉(ことは)が家を出るときに。見計(みはか)らったかのように老女が姿を見せて、深々と頭を下げただけ。それでも、見送られることに慣れていない彼女は、多少動揺していたが。


「……ええと、はい。ありがとうございます。行ってきます」


口に出したのは、実家にいた頃は使わなかった挨拶の言葉だ。老いた召使いを気にしながら、女は家の外に出て、以前も使ったバス停に向かった。


「どこに行きましょう。ひとまず駅で、良いでしょうか」


「そうだね。……せっかくだから、どこかで朝ごはんを食べるといい。それと、人が居るところでは僕に話しかけないように。僕の姿は、普通の人には見えないからね」


「……はい」


狐の答えに、彼女は神妙(しんみょう)な顔で頷く。来たバスに乗って、戸惑いながらも周囲を真似て、カードを使う。そして琴葉は、手すりを掴んでその場に立った。


(……大丈夫。私は1人じゃないんだから)


側には暁明(ぎょうめい)がいる。それに、胸の奥には。神々が渡した熱が、今も息づいていた。そのことを思うだけで、彼女は安心できる。琴葉は(うつむ)いたまま、バスに揺られて。人の波に押されるような形になりながらも、駅で降りる。その場に立ち尽くす彼女には構わず、人々はそれぞれの用を済ませるために移動していく。やがてその場には、琴葉だけが残された。彼女は渡されたカードを握って、大した目的もなく歩き出す。何となく目についた喫茶店の自動ドアをおずおずと通り抜けた女は、店員から声をかけられて飛び上がった。


「お一人ですか?」


「……ぅえ?! あ、はい!」


「ご注文は?」


「あ……あの、その、このセット……」


「トーストとサラダのセットですね。ドリンクは何にします?」


「日本茶で……」


「申し訳ありません。モーニングセットのドリンクは、ここに記載のある物だけなんです」


明らかに様子のおかしい琴葉にも、店員は笑顔で対応しながらメニューを指差す。彼女は何度か(まばた)きをして、そこに書いてある文字を目で追った。


「……それなら、紅茶で」


「紅茶ですね。かしこまりました。ホットとアイスがございますが」


「温かい方で……」


「ホットですね。お支払いはカードですか?」


「……はい。これ、使えますか?」


「大丈夫ですよ。……はい、ありがとうございます。では、ご注文の品が出来上がるまで、少々お待ちください」


店員とのやり取りが終わって、琴葉はようやく一息つく。人付き合いは苦手ではないが、システム自体を知らないため、余計な手間がかかってしまう。そのせいで人に迷惑をかけていることを思うと、彼女の心は先程とは打って変わって、沈み込んでしまった。

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