表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
出来損ないと呼ばれた巫女は、守り神となった妖に溺愛される。  作者: 文字書きA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/46

第三六話:お出かけ(前編)

翌日。早朝。琴葉(ことは)は目を覚まし、起き上がって胸に手を当てた。


「温かい……」


どこかボンヤリとした表情で呟く彼女に、狐がすり寄る。彼は彼女と目が合うと、穏やかな笑みを浮かべた。


「おはよう。……今日はゆっくり休むといい。宵闇(よいやみ)も出かけたことだしね」


「……宵闇様が? こんなに早く? 一体何が……」


「君は知らなくてもいい話だ。……それよりも、何かやりたいことはない?」


そう言う彼は、宵闇から事情を聞いている。青葉がやったことと、彼の対応。その全てを聞いた上で、自分は関わらないと約束して彼を見送った狐は、巫女の前ではそのことをおくびにも出さなかった。事情を全く知らない琴葉は、彼の言葉を聞いて考え込む。


「やりたいこと……?」


実家では、やるべきことが決められていた。日中は家中の掃除をして、夕方からは風呂を()かして、夜には青葉に押し付けられた宿題を終わらせる。隙間(すきま)時間も、桜花の娘としての教養を身につけるために(つい)やしていた彼女にとって、自分のために使う時間など無かった。故に、やりたいことも分からなくて。女は項垂(うなだ)れつつ、返した。


「……ごめんなさい。何も思いつかなくて……」


「では外に出ようか。奴が置いていった金がある。人の世界で、1日遊ぶだけなら十分だろう」


その返答を予想していたのか、狐は言って財布を差し出す。中には金銭ではなく、1枚のカードが入っていた。黒い、薄い板。その中にいくら入っているのか、外からでは確認できず、女は戸惑う。


「これが……? 本当に? いいのでしょうか。私は、(いただ)いた御恩(ごおん)の半分も、お返しできていないのに」


「勿論だとも」


神が笑みを深める。青い目が、彼女を見据えて輝いた。


「いいかい、琴ちゃん。君がそれを使うことが、奴への返礼になるんだ。遠慮なんてしなくていい」


人の世で、その薄い板にどれほどの価値があるのか。彼は正しく理解していた。その上で、彼女に告げる。


「望みを、見つけて。何でもいい。僕たちは、君に自由に生きてほしい。休みを貰っても、やりたいことが分からないなら。色々なことをやってみるんだ。大丈夫。君に危険はない。僕が付いているからね」


(さと)されて、琴葉はようやく動きだす。布団を(たた)み、押し入れにしまって、タンスから出した服に着替える。動作自体は遅かったが、それは女が、初めて自分の考えで動いたからだと知っていたので。狐は何も語らずに、側で彼女を見守っていた。最後に、琴葉は床に置かれた財布を大事そうに(ふところ)に入れて、部屋を出る。これからのことに、大きな不安と、少しの期待を持ちながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ