第三十話:顛末
球体になった桜の花が、炎と混ざり合って白い光になり、大地に吸収されていく。崩れた黒い塊の中でも、最も大きなモノが、光を見下ろして呟いた。
「……神様なのに、意地悪ね。私はこの人と、ここで幸せに暮らしたいだけなのに」
「今はそうでも、いずれ君の意志は消える。他の雑霊を取り込み、何をしたいかさえ曖昧になって、人に害をなす前に。愛した男を連れて、彼岸に渡るべきではないかな?」
炎に照らされた塊は、いつの間にか、女の姿になっていた。女はその腕で、四角い檻を抱えている。檻の中には、背中を丸めた男の姿があった。それを愛しげに見つめて、彼女は地面に目を向ける。
「……なら、開けてくれる? 私はこのまま行きたいの」
「いいだろう」
狐は答えて、地を尾で叩く。一瞬、その場が揺れて、地面に亀裂が走った。分かたれた大地の奥には、底まで続く坂が見える。琴葉と青葉は揺れを感じた瞬間に、反射的に身を屈めた。宵闇だけが全く慌てず、琴葉に手を貸して支える。黒い女は、彼らを無視して坂をゆっくりと下っていった。大地に生まれた亀裂は、彼女を檻ごと飲み込んで閉じる。青葉は体勢を低くしたまま、目前にいる2人を睨みつけて吐き捨てた。
「……何よ。お姉様ばっかり。ズルいわ」
「それはどうかな。宵闇の行動は贔屓だけど、僕は神として、どちらの祝詞も聞いていた。その上で、琴葉の方が良いと判断しただけだ。……青葉。君も巫女なら、定形文で済ませてはいけない。その場に合わせて、自分の思いを口にすべきだ。己の方が上だと主張したいのなら、尚更に」
目を離しているうちに元に戻っていた狐が、花びらを踏みしめて歩きながら口を挟む。青葉はその意見に歯噛みしたが、言い返すことはなかった。強い風が吹いて、地に広がった桜の花を舞い上げ、空の向こうに運んでいく。狐は風が吹き抜けた瞬間に飛び上がって、琴葉の肩へと戻ってきた。
「僕は疲れた。後のことは、君たちに任すよ」
彼はそんなことを言いながら、体を丸めて目を閉じる。ゆっくりと体を起こす琴葉から手を離しながら、宵闇は低い声で言った。
「任せるも何も、ほとんど終わっているだろう。俺も眠るぞ」
その言葉が終わるのと同時に、彼の姿が変化する。後に残された玲哉は、苦笑を浮かべて口を開いた。
「……では、後始末をして帰りましょう。建物を壊す前のお祓いは、まだ終わっていないそうですし」
彼の提案で、3人はその場で簡単な儀式をする。建物は静まり返っており、それは儀式の間も変わらなかった。




