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出来損ないと呼ばれた巫女は、守り神となった妖に溺愛される。  作者: 文字書きA


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第三話:巫女の目覚め

両手を組み、祈りを捧げていた琴葉(ことは)は、外の騒ぎに顔を上げた。


「お待ちください! あの子は、家から出ることすら出来ぬのです……!!」


父親の焦る声。廊下を行き交う、大勢の足音。それらを耳にして、女はゆっくりと立ち上がる。


(いったい何が……?)


部屋の障子(しょうじ)を開けて、彼女は外の様子を見た。騒ぎが起きているのは玄関の方だ。誰かが家に押し入ろうとして、侍従や侍女たちに止められている。


(あれ、は……)


遠目からでも、その人が誰であるのかは分かった。銀の髪に赤い瞳。それは、桜花(おうか)家と対をなす名家、橘花(きっか)家の守り神である証だ。


(どうして、宵闇(よいやみ)様を拒んでいるの?)


桜花家と橘花家は、対立しているわけではない。神を拒む理由など、自分たちには無いはずだ。そう思いながら、女は玄関に向かって足を進めた。


「だめ! こっちに来ないで、お姉様!!」


青葉(あおば)が金切り声を上げる。琴葉は反射的に足を止めた。宵闇が侍従たちを振り払って、彼女の方に視線を向ける。


「……そうか、お前が」


思わず目を奪われる、蠱惑的(こわくてき)な笑みを浮かべて。男は少女を手招いた。その瞬間。目に見えない糸に引かれるように、彼女の足は、勝手に動き出してしまう。


「よく来たな。娘、名は」


瞬きの間に。琴葉は宵闇の前に立たされた。彼女は慌てて膝を折って、手を床に付きながら頭を下げる。


「は、はい……! 私は、桜花琴葉と申します」


「琴葉か。良い名だ。……顔を上げろ。お前は俺の妻として、これから共に暮らすのだから」


「は……?」


妻。その言葉に、女は当惑(とうわく)した。目線を上げて、彼女は続ける。


「その、恐れながら……私は、結界を通ることの出来ぬ身で」


「だろうな。一目見ただけでも分かる、美しい魂の持ち主だ。暁明(ぎょうめい)がこんな逸材を、おいそれと手放すものか」


宵闇は、琴葉の言葉を聞いて笑う。女は首を傾げていた。


「……どなたかと勘違いされていらっしゃるのでしょう。私には逸材と呼ばれるほどの力はなく……」


「必要ない。……が、お前が欲しいと言うのなら、まずはそれを与えてやるか。立て、琴葉」


「は……はい」


男の(めい)に、女はすぐに立ち上がる。その体に手を伸ばして、彼は彼女を抱き寄せた。そして流れるような動作で、唇を重ね、息を吹き込む。


(……え?)


目を見開いた女の体、その隅々を、冷たく軽い気体が巡る。やがて気体は、彼女の心身に満ちて馴染んだ。


「宵闇様、何を……?!」


青葉が責めるように声を上げる。それすら、遠くから響いてくるかのように感じて。琴葉はただ、呆然としていた。

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