第二七話:調査当日(中編)
外には既に、佐藤の車が停まっていた。
「おはようございます」
頭を下げる彼の奥。車の後部座席に乗っている青葉は、険のある眼差しで2人を見た。
「……おはようございます」
彼女を気にしていたせいで、琴葉は一瞬挨拶が遅れる。宵闇は何も言わなかった。佐藤は表情を変えず、2人を車に誘導する。神は渋い顔で琴葉を助手席に座らせて、自分は後部座席に乗った。自然と隣り合う形になり、青葉は喜々として彼に話しかける。
「おはようございます。今日は初めから、宵闇様の方なのですね」
神は黙って腕を組み、彼女を無視する。琴葉は心配そうに、振り返った。青葉は頬を膨らませていたが、それでも機嫌は良さそうだ。そのことに、女は安堵の息を吐く。
「……今日は、遠くに行くとのことでしたが……具体的には、どちらまで?」
「隣県です」
彼女の問いに答えたのは、宵闇ではなく佐藤だった。彼は車を発進させながら、淡々とした声で続ける。
「例の車が見つかったのは、奥多摩町の道路沿い。病院の所在地は山梨県甲州市でした。閉院に際して、病院廃止届などが提出されたのは10月28日。警察が車を発見したのは11月5日です」
資料も見ずに、流れるように役人が話す。青葉は馬鹿にしたような顔で口を開いた。
「そんな細かいこと、聞いても意味はないでしょう。それよりも、霊の詳細が知りたいわ。子供か大人かくらい、分かっているのではなくて?」
「私は本職ではありませんし、報告でも詳しいことは分かっていないとされていますが」
そう前置いてから、佐藤は眉間にシワを寄せて言った。
「……ただ、車の窓に残されていた手形は、小さなものばかりでした。時間が経っても色あせない、真っ赤な紅葉のようだったと」
「そう。それならきっと水子でしょうね。元が病院だったというなら、そういう存在は多いでしょう。けれど、その子たちが暴れているというのは問題だわ。……きっと、医師がきちんと供養していなかったのね」
彼の答えを聞いて、青葉は1人、納得する。琴葉は思わず口を挟んだ。
「まだ視てもいないのに、決めつけるの?」
「……何よ。言っておくけれど、この前のことは例外なんだからね。油断しなければ、私の方が優秀なんだから。お姉様は、黙っていて」
妹はあっという間に不機嫌になり、姉を睨みつけて吐き捨てる。宵闇と暁明は咄嗟に、琴葉を庇おうとした。だが、それよりも先に。
「……でも。決めつけるのは、良くないと思うわ。玲哉さんだって、現場に行くまで明言は避けていたもの。……それにね、青葉。あなたも知っているでしょう。言葉には、力があるのよ。特に私達は、よく考えて口にしないと、取り返しのつかないことになるかもしれない。だったら確定していないことは、言葉にするべきじゃないわ」
女はハッキリと、言い返した。少女は悔しそうに唇を噛むが、言い返すことが出来ずに口を閉ざす。二柱の神は、少し意外に思いながら琴葉を見つめた。彼女は真顔で、妹を見つめていた。




