第二六話:調査当日(前編)
7日間は、あっという間に過ぎ去った。少なくとも、琴葉にとっては。
(……変なの。何でもできるようになったのに、前より楽をさせてもらえるなんて)
早起きの癖は変わらなかったが、雑用を押し付けられることは無くなった。美味しいご飯も、温かなお風呂も、何も言わずとも用意される。一緒に暮らす人たちからも、気遣われることばかりで。
(私はお返しがしたいのに)
家事を手伝おうとすると、玲哉を筆頭に、家にいる人たちが全力で止めに来る。そのせいで、彼女はずっと不安だった。
(……でも、今日は手伝ってほしいって言われたから)
起きてすぐ、日付を確認して。女は自分に気合を入れる。彼と仕事ができる日を、彼女は心待ちにしていた。
「おはよう、琴ちゃん」
枕元にはいつの間にか、暁明が座っていた。琴葉は寝ぼけ眼で彼を見つめる。
「おはようございます」
このやり取りも、すっかり恒例になってしまった。そう思いながら、彼女は顔を洗いに行く。冷たい水に触れると、一気に意識が覚醒した。
「おはようございます、琴葉さん。今日もお早いですね」
玲哉が声をかけてくる。琴葉は顔を拭きながら言った。
「……玲哉さんこそ。先に起きて、服まで着替えていらっしゃるじゃないですか。私はこれからなのに」
「あなたに合わせていたからですよ」
ニコリと微笑み、彼が返す。
「早起きは三文の徳、ですね。最も、あなたと話せることには、三文以上の価値があると思いますが」
「……そんな……」
彼女は返答に困って、言葉を濁した。それは女がまだ、自分の価値を低く見ている証拠だったが、少年はそのことには言及せずに話を続ける。
「とはいえ。今日は少し遠出をするので、そろそろ着替えるべきでしょう。急がなくてもいいので、これからお願いします」
「……あ、はい!」
琴葉はその言葉に顔を輝かせて、すぐにその場から離れる。その背を見つめる玲哉の内で、宵闇が問いかけた。
(それで、どうだ。お前の見立ては)
(……今回は初めから、宵闇様にお任せします)
目を閉じて、彼は自らの意識を底へと沈めていく。神は無言で、内から外へと移っていった。最初に変わるのは瞳の色。次いで髪が伸び、最後に色が変化する。
「あいつが、現場を見る前に主導権を渡すとはな。……あるいは琴葉がいるからか」
1人佇み、言葉を落として。表に出てきた宵闇は目を細めた。
「やれやれ、暁明も側にいるというのに。相変わらずの心配性だ」
そんなことを口に出した後に。1人分の足音を耳にして、彼は顔を上げる。見れば廊下の向こうから、巫女姿の少女がこちらに向けて、早歩きで向かってきた。




