第二五話:調査前
去っていく役人たちを見送って、琴葉は玲哉の方を見た。
「……あの、来週の調査とはどのような……?」
「霊障ですよ。1ヶ月ほど前に潰れた病院で、解体前のお祓いをしようとした際に判明したそうです。相当な恨みがあるようで……。個人経営の病院で、経営者は夜逃げをし、翌朝遺体で見つかりました。警察の捜査では、一家で心中したという結論が出ています」
彼は真顔で話しながら、彼女を連れて家に入った。靴を脱いで揃えて置き、手を洗う間にも会話は続く。
「……心中、ですか」
「ええ。なんでも練炭自殺だったらしく、残されていた車を見た霊能者は、霊が関わった痕跡があると報告しました。遺体は既に火葬されていますが、その車は壊されず、まだ残っているとのことです。今は病院の駐車場に置かれているようなので、そちらも確認するべきでしょうね」
「恨みの対象を呪い殺して、それでも落ち着かないなんて……いったい何があったのでしょう」
「さて……それは実際に、本人から聞くしかないでしょう。僕たちには、その力があるのですから。いずれにしても、先のことです」
玲哉は淡々とした声でそう告げて、乾いたタオルを琴葉に渡した。彼女はタオルを使って、使用済みの棚に置きながら遠慮がちに呟く。
「……あの。お邪魔でなければ、私も同行したいのですが」
「邪魔だなんて……! むしろ僕から、お願いしたいくらいです」
彼は彼女の目を正面から見て、ハッキリと言った。
「大丈夫ですよ、琴葉さん。あなたには、神様がついていらっしゃいます。……それに今日のあなたは、初めてとは思えないほど、上手く力を扱えていました。戦力として、十分すぎるくらいです」
その真剣な眼差しに、女は言葉が出なくなる。少年に手を引かれて、居間に向かう途中で。彼女は足元から込み上げてくる嬉しさに、口元を緩めた。
(……良かった。私はもう、足手まといにはならないんだ。ちゃんと働くことができる)
実家にいた頃は、いつも邪険にされていた。それが無いだけでも安心できて、更に戦力にもなれるというのは、琴葉にとっては幸せな話だ。疲れているのに、自然と足取りが軽くなるほどに。
(……ああ。君は本当に、可愛いな……)
そんな彼女の肩の上で。狐の姿をした神は、柔らかな目線を女に向けた。神に愛されていると知っても、増長しない精神。それこそ、彼が最も尊ぶものだ。居間の扉を開けて、食卓に座る琴葉の側で。暁明は穏やかな気持ちのまま、彼女をずっと見つめ続けた。




