第二四話:待ち人
「……そういえば、橘花の神使は蛇ですよね?」
帰り道。琴葉は思い出したように呟く。
「巫女として、私がお世話をするべきでしょうか」
桜花の家では暁明にあやかって、狐を飼っていることが多い。それは当然、本家でも同じだ。家にいる狐は神の使いだとされていて、人間よりも偉い。彼らに餌を与えるのは跡取りとなる子供の役目で、こればかりは蒼葉でも人に押し付けたりはせず、きちんと自分でやっていた。それは橘花でも変わらないのではないかと思って、女は隣にいる少年を見る。彼は笑って、言葉を返した。
「本家の神使であれば、普段は庭で暮らしていますよ。宵闇様がいらっしゃるので、母屋にはあまり近づきませんが。琴葉さんが関わりたいと思うのなら、庭に回ってみてください。宵闇様の神気を帯びているあなたには、彼らも害を為さないでしょう」
柔らかな声に、琴葉は戸惑いつつも頷く。2人はバスと電車を乗り継いで帰宅した。
「……何か、緊急の要件でもありましたか?」
橘花の本家。門の前には、2つの人影があった。玲哉が前に出て、声をかける。人影の片方、男の方が淡々とした声で言う。
「7日後に予定されていた調査の件で、ご連絡が。本日、終業前に青葉様が庁舎にいらして、『もっと難しい仕事に同行させろ』と騒がれたので……」
「……ああ、それで。調査にも、彼女が同行することになったのですか。……あなた方も大変ですね」
「これも我々の仕事ですから」
呆れ顔の玲哉に向かって、佐藤が淡々とした声で言う。少年は彼を見上げて、聞いた。
「……ところで。彼女があなたから、悪魔の話を聞いたと言っていたんですが」
「ああ、その件ですか。不正確な情報でしたので、報告として上げてはいなかったのです。青葉さんがSNSで見つけたことを、これは本当なのかとお聞きになられて……。私は、まだこちらでは確認できていませんが、可能性はあるとお話しただけですから」
「そうでしたか。僕に届いていないのは、そのせいだったんですね。……ただ、それでも。これからは気をつけるべきかもしれません。言葉には力が籠もるもの。まして、曲がりなりにも巫女の力を持つ者が発したとなれば……」
会話の中で、役人は眉間にシワを寄せる。
「言霊となる、ですか。分かりました。悪魔については改めて、詳しく調べておきましょう」
手帳を開いて、彼は予定を書き加える。琴葉は玲哉の後ろから、その様子を見つめていた。
「用件というのは、それだけですか? ……本当に律儀な方ですね。直接いらっしゃらなくとも、メールや電話で済ませられたでしょうに」
「……自分はこういう性分なのです」
微笑む少年に向かって、男は深々と頭を下げる。その横で、部下も同じようにした。
「それでは私たちは、これで失礼いたします」




