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出来損ないと呼ばれた巫女は、守り神となった妖に溺愛される。  作者: 文字書きA


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第二一話:__憑き

青葉(あおば)()るような視線に、琴葉(ことは)は体を固くする。


(……どうして)


彼女は家族を愛していた。召使い以下の扱いを受けても、なお。


(私はそんなに、恨まれるようなことをしたのかな)


そう思って、悲しげに(うつむ)く女。その肩の上で、狐は目を細めた。


(君は悪くなんてないのに)


生まれながらの清らかさ。それは琴葉の美徳だったが、故に彼女は誰のことも攻撃できない。常に自分だけを傷つけ続ける姿に痛々しさを感じて、狐は無言で寄り添った。宵闇(よいやみ)も、また。同じ気持ちで、彼女を見る。


「……琴葉。行こう」


妹の視線から隠すように、姉の体を抱き寄せて。彼は(ささや)き、エレベーターに戻った。青葉は無言で付いていく。


(弱い人ね)


彼女は姉のことを誤解していた。言い返してこないのは、気弱だからだという思い込み。それが苛立ちを助長する。


(こんな人より、私の方が上手くやれるはずなのに)


青葉には能力に裏打ちされた自信があった。神々に囲まれている琴葉は、彼女の目からは楽をしているようにしか見えない。姉妹はどこまでも、すれ違ったまま建物を出た。そこから次の発電所まで移動するために、3人は最寄りの停留所からバスに乗る。黙ってバスに揺られていた彼らは、バス停を3つ通り過ぎた所で、席に座っている客の(うめ)き声を耳にした。青白い顔で、口元を抑える男性。彼を見て、周囲にいる人々は医者を呼ぼうとする。


「ちょっと待って」


そこに青葉は、堂々と割り込んで声を上げた。


「悪魔()きかもしれないわ。佐藤さんから聞いたのよ。外国から、悪いモノが入り込んだ可能性があるって」


「……あ、でも……」


彼女の後ろで。琴葉はか細い声を出す。姉の目には、妹の話とは矛盾するモノが見えていた。うずくまる男の真上で、楽しそうに笑う生き物。それはよく見ると()けていた。耳と尻尾を揺らして、橙色の火を操りながら、小柄な動物は遊び続けている。そして。それと同じ姿を取っている暁明(ぎょうめい)が、女の側でため息をついた。


「……そうだ。青葉も当然、見えているね? それはただの、イタズラ好きな子狐だよ」


淡々とした声。それで少女も、自分が見間違えていたことに気づく。恥ずかしさから、彼女は強い口調になった。


「……わ、分かってるわよ」


青葉が子狐を捕まえようとして、刀印(とういん)を結ぶ。子狐は、そんな彼女を笑うように飛び跳ねていた。その目が、ふと。琴葉の方に向けられる。正確には、彼女の肩の上にいる暁明へと。彼は子狐と目があった瞬間に告げた。


「あまり人に、迷惑をかけないように。いいね?」


子狐は、慌てて男の体を捨てる。そして窓ガラスを通り抜けて、外に逃げた。男は見る間に、元気を取り戻していく。


「……あ、ああ……すいません。大丈夫です。見たところ、どこぞの術師の方でしょうか。わざわざありがとうございます」


すっかり元気になった男は、何度も頭を下げながら、目の前にいる青葉の手を握って礼を言う。青葉はどこか気まずそうに対応していたが、琴葉は安堵の表情を浮かべて、その光景を離れた場所から見つめていた。

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