第十四話:初仕事(前編)
翌朝。長年の習慣で、琴葉は早くに目が覚めた。
(……どうしよう、何かしていないと落ち着かない……)
実家では、朝から家事を手伝っていた。習慣で、彼女はすぐに部屋を出る。
「琴ちゃん」
背後から暁明の声がした。女は足を止めて、振り返る。
「もう、働かなくていいんだよ」
「……それは分かっているのですが」
所在なげに、琴葉が目を伏せてため息をつく。小さな狐は、彼女の側に歩み寄った。
「落ち着かないの? ……でも、勝手に動くのは良くないよ。せめてあいつに確認しないと」
そう言って、彼は隣の部屋に向かった。障子の前で、狐は声を張り上げる。
「宵闇! 起きてる?」
「……今は僕の方ですが、何かございましたか?」
少しして、障子が内から開けられた。隙間からは、寝巻き姿の玲哉が顔を出す。狐は気にせず続けた。
「琴ちゃんが早く起きちゃって。……これまで実家で、仕事を押し付けられてきたからね。何かしていないと、落ち着かないらしいんだ」
「琴葉さんが?」
玲哉は扉を開けきって、狐の後ろに立つ琴葉を見た。
「……分かりました。まずは、顔を洗って着替えましょう。今日はどのみち、政府からの依頼をこなさなければなりません。道すがら、その説明もいたしますね」
そして。穏やかな笑みを浮かべつつ、少年は部屋を出て彼女を先導した。宵闇が表に出ている時と違って、その背は琴葉よりも低い。
「この国の電力が、地の龍脈を利用した特別な発電施設で賄われていることはご存知ですか?」
「あ、はい……。確か、簡易的な術が施されているのですよね。私の家にも、一部の管理と運営が任されていると聞いた覚えがあります」
土地の力。その最たるものが、大地を巡る気の流れ……龍脈である。常に流動し、その時々で位置が変わるとされる龍脈の集結点になり得る場所。それは龍穴と呼ばれており、純度の高いエネルギーが生成できる所だった。今や、人の生活に欠かせないものとなった電気。それも、龍穴の上に建てられた発電所によって作られている。
「ええ。知っての通り、龍脈とは常に形を変えるもの。ですが一度建てた発電所を、そう簡単に移動することはできません。なので定期的に、龍穴に龍脈を引くという作業を行わなくてはならない。これは雑用ですが、人々の生活を支える上では、とても大切なお仕事です。……なので、僕はいつも丁寧に見ることを心がけているんですよ」
そう、言葉を落として。玲哉は照れたような笑みを見せる。琴葉も釣られて、笑ってしまった。




