第十話:夕食(前編)
客間から居間に移動する間も、神々は琴葉から離れなかった。彼女は少し、緊張しながら廊下を歩く。
「今日は、美味しいご飯をお腹いっぱい食べようね」
「なんだ、実家ではそんなに苦労したのか? ……よしよし、もう心配は要らないからな。これからは俺が付いている。ずっと守ってやろう」
代わる代わる、話しかけられる。その言葉に頷いて、女は迷いながら口を開いた。
「……あの。お二方は、どうして私を気にかけてくださるのでしょうか」
「あれ、言わなかった? 君の魂が美しいからだよ。晶子と同じ、輝く心。その色は、僕たちを惹きつけて離さないんだ」
そう言って、暁明は狐の姿で彼女にすり寄る。宵闇も、柔らかな眼差しを向けてきた。琴葉は瞬きをして、胸に手を当てる。
「……その。私には、よく分からなくて。魂の色、なんて……」
「人には見えんさ。貞包もそうだった。それでも俺は奴を気に入っていたし、決まった相手がいなければ、永遠を共にしたかった」
「……そういえば。宵闇様の姿絵は、女性であることが多かったような……」
「俺たちにとって、人の姿はどうせ仮のものだからな。貞包の側にいる時は、奴に合わせていた。それだけだ」
会話の途中で、何かに気づいた女を伴って。宵闇は居間に入る。食卓には、既に食事が並べられていた。
「……凄い」
舟盛りや一人鍋まである豪華さに、琴葉は思わず声を上げる。宵闇は先に座布団に座って、少女に向かって手招きした。
「さあ、琴葉。隣に来い。ここは、お前の席だ」
「……はい」
招かれるままに席について、彼女は目を輝かせながら箸を持つ。そして幸せそうな顔で食事を始めた。その横顔を見つめていた宵闇は、狐と目が合って真顔になる。
(……こうして僕らが揃うのも、久々だね。僕は本体じゃないし、君も人の体を借りているけれど)
(……そうだな)
口には出さず、思考を伝える。それは神の業だった。二柱の神は、言葉を発さずに意思を交わす。
(君には見抜かれているだろうけど、僕は琴ちゃんが生まれた時から、今までずっと見守っていたんだ。この子はとても優しいから、どんな扱いを受けても家族のことを愛していて、どうするべきかと思っていたよ)
(そうか。それなら丁度良かったな。玲哉の婚約者として、ここに置こう。……琴葉には、まだ決まった相手はいないのだろう? 今度こそ、手に入れよう。この際だ。お前が居ても構わない)
(はあ? この子は桜花の……つまりは僕の愛し子だけど? むしろ、譲歩してあげているのはこちらの方だ。勘違いは、しないでほしいな)




