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08 お揃いのキーホルダー


「あ、うそ! ここの本屋めちゃくちゃ大きい……!」


 真が歓喜の声をあげる。書店に入った瞬間、目をキラキラと輝かせていた。

 今、俺たちがいる場所は、駅と直結しているショッピングセンターの中にある本屋だ。


 ゲームで遊んだ後、俺たちは駅前にやってきた。お昼ご飯を食べるついでに、ウインドウショッピングをすることにしたのだ。

 俺自身、普段の買い物は、ほぼこのショッピングセンターで済ませている。なので、真によく利用している店などを紹介してまわっていた──その途中、書店を見つけた真は駆け寄り、目を輝かせた、というわけだ。


「えっ……! 新刊が出てる。えーっどうしよう」


 どうやら真は、本を読むのが好きらしい。色んな本に目移りしては「どうしよう」と悩んでいた。

 手に取って、本の裏側に書いてある、あらすじを読んでは、天井を見上げ「うーん……」と唸っている。


「そんなに欲しいのなら、買えば?」

「そうなんだけど……でも、今月末に作者買いしている人の新刊が出るんだよなぁ」

「あー……それは悩むな?」

「お小遣いが足りない……バイトしたくても、特進クラスは授業終わるの遅いしさぁ」


 真は名残惜しそうに本を置く。それから、俺たちは書店の中にある雑貨コーナーへ移動した。

 文具やキーホルダーが並んでいる場所を見ている中、俺はピタリと足を止めた。


 目に留まったのは、小さなキーホルダー。思わずそれに手を伸ばす。

 皇帝ペンギンのキーホルダーだ。兄貴の配信アイコンのペンギンにそっくりだった。


「朝陽、どうかした?」


 足を止めた俺に気づいた真が、横から顔を出し、俺の手の中にあるものを見た。


「あ。それ可愛いね」

「そう、だな」

「キーホルダー買うの? オレも買っちゃおうかな~?」


 そう言いながら、真はキーホルダーを手を伸ばす。デフォルメされたペンギンの表情は、四種類ほどあった。ふたりとも笑顔になっているペンギンを選び取ると、俺たちはレジに向かった。


 会計を終えて、次に同じ階にあるフードコートに向かう。

 俺たちはラーメンを注文し、出来上がったものを受け取ると空いている席に座った。ずるずるとラーメンを啜り、半分ほど食べたところで、俺は口を開いた。


「真。キーホルダーで良かったのか? さっき迷ってた本を買ったほうがよかったんじゃ……」

「いいの、いいの。なんか記念になるものが、ちょっと欲しくなっただけだから」

「記念って、なんの……?」

「ええ……? それを言わせるの……? ちょっと恥ずかしいな。んと……朝陽と友達になれたのが嬉しかったから、その記念……みたいな?」


 正面に座っている真が、明後日のほうを向きながら、そう答える。

 なんだろう……改めて「友達」と言葉にされるとこっぱずかしい。顔を突き合わせて「僕たちお友達だよね?」と言う年でもないだけに、俺も明後日のほうを向いて「そっか。記念か」と返した。


 お揃いのキーホルダー。よくよく考えてみたら、付き合いたてのカップルですら、こんなベタなもの買うだろうか……? いや、買わないよな? ……たぶん。


「……………」


 俺はトレイの上にある、氷の入った水のコップに手を伸ばした。

 ラーメンで暑くなってしまった身体を、水を飲むことで冷ます。ゴクゴクと喉を鳴らし飲み干すと、コップの中に氷が二個残っていた。それも口の中に入れて、ガリガリと嚙み砕く。その音を聞いた真が、ふふっと笑った。

 真が笑ってくれたことで、俺たちの間に流れるいつもの空気感が戻ってきた。


 ラーメンを食べるのを再開し、全部食べ終わると、俺は水のお代わりを注いだ。

 真が食べ終わったタイミングで俺たちは席を立ち、フードコートを出る。そして、またプラプラと店を見て回った。

 三時間ほど経っただろうか? お開きの雰囲気になって、俺は真を駅の改札口まで見送る。


「朝陽、今日はありがとう。楽しかった。また、家に遊びに行ってもいい…」

「おう。いつでも遊びに来ていいぞ。でも、次はお前にもホラーゲームやってもらうからな?」

「わかった。じゃあ、練習してから遊びに行こうかな」


 真がスマホをポケットから取り出し、改札機にタッチする。改札口を通ると振り返って、手を振った。俺も手を振り返して「じゃあな!」と声をかける。あいつの姿が見えなくなってから、俺は踵を返し、駅を出た。


 **


「こんばんは~! おっ、今日はシンさんが一番乗り。最近、サルさんとのバトルが激しいね」

『今日はオレが勝利! やったね!』


 真と駅で別れ、家に戻った後、俺は自分たちが使ったコップを洗った。

 しばらくすると父さんと母さんが帰ってきて、出かけた先で買ってきてくれたお弁当を夕飯に食べる。


 シャワーを済ませ、宿題を終えると俺はノートパソコンの電源を入れた。本棚の隅に押し込んでいた(けど丸見えだった)マイクを取り出し、パソコンに繋ぐと配信開始のボタンを押す。

 ──一分後。

 常連リスナーのシンさんが『ポコン』という音を立て、現れた。


 いつものように雑談していると、ポコン、ポコンと音が鳴り続いた。次々と人が集まり出し、チャット欄がにぎやかになっていく。

 リスナーさん同士が会話をし始めた頃、俺は立ち上がり、準備し損ねていたカフェオレを取りに行った。マグカップを手に戻ってくると、マウスを動かし、ホラーゲームのアイコンをクリックする。


 ゲーム開始──俺は本日二回目となる叫び声をあげた。


『やっぱこれを聞かないとな~!』

『さすがコウさんだぜ!』


 リスナーの皆が、次々にコメントを書き込んでチャット欄の流れが早くなる。

 ゲームをプレイしながら、流れの早いコメントを拾うのは至難の業だ。配信を始めて一年近くになるけれど、まだまだそこは慣れなかった。


『……やっぱり、同じだ』


 つぶやきのように書かれたコメントが、あっという間に流れていく。

 俺は、誰が書き込んだのか確かめることもできないまま、また叫び声をあげたのだった。

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