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16 光


 ──翌朝。俺は学校へ行き、教室のドアを開ける。

 すると、ドアの向こう側には、仁王立ちしている真がいた。


「おはよう。朝陽」

「おは……よう……?」


 なんで真が?

 というか、なんで俺が教室に入ってくるってわかったんだ?


 頭の中にクエスチョンマークが飛び交う。真の視線が鋭く刺さる。


「ちょっと、屋上まで顔かしてくれる?」


 ノーとは言わせない勢いで迫られて、思わず「はい」って返事してしまった。

 とりあえず、机の上にカバンを置いて、真の後ろをついていくように教室を出る。


 階段を上って、屋上に続く扉を開けた。空は灰色の雲で覆われ、少し湿った風が頬を撫でていく。

 真はスタスタと歩いて、屋上のフェンスのところまで行くと、くるっと振り返って俺を見た。


「朝陽。オレのこと避けてるでしょ」

「え、あ……いや、避けては……」


 真が言い出すことについては、何となく察しがついていた。だが、最初からスッパリと切り出されると思っていなかった俺の返事は、ごにょごにょと歯切れの悪いものだった。


「オレ、朝陽に何かした? だったら教えて欲しいんだけど」

「い、いや……真は何もしてないよ」


 そう。ただ、俺がウジウジといつまでも悩んでるだけだ。真は悪くない。

 自分の足元を見ながらそう答えると、真が「こっち見て」と言ってきた。


「オレが朝陽の家に行ってから……だよね? なんかオレのこと避け出したの。もしかして……あれは迷惑だった?」

「いや、本当に真のせいとかじゃなく」

「突然、オレがあんなこと言っちゃったから……きっと戸惑ってるのかなって、だから考える時間も必要なんだろうなって、そう思って待ってたけど……」


 ──戸惑ってる。

 ──考える時間。


(……って、まさか)


 もしかして、俺の気持ちは、いつの間にか真に伝わっていたのか?

 それで『お前にはそんな気はない』のだと、湾曲的に教えるために、あの日、兄貴のことを好きだと言った……ということだろうか?


 真はモテる。だから、自分に寄せられる好意には敏感なのかもしれない。

 そういえばあの日、俺は気づかなかったけれど、真は、声をかけてきた女の人はナンパしようとしていたと見抜いていた。


(そうか、そう……だったのか)


 なんだ。ウジウジと考える時間なんて、俺には必要なかった。

 だって、最初から真は答えを提示していたんだ。なのに、俺はそれに気づかず、友情を失うのが怖くて、向き合うことから逃げていた


 ──フラれた。


 もともと、真とどうにかなるとは思ってなかった。けど、やっぱり胸が痛い。


「ごめん。悪かったな。俺の察しが悪いばっかりに……」

「……ん?」

「ただ、ずっと黙ってるのもお前につらい思いをさせるかもしれないから言っておく。……真の気持ちは、届かないと思う」

「…………え?」


 俺はスマホを取り出し、配信チャンネルにアクセスした。その画面を真に見せる。


「真が好きな相手──それって、実は俺の兄貴なんだ」

「……お兄さん? なんで朝陽のお兄さんが出てくるの……?」

「この配信アカウントの『コウ』は、もともと兄貴のアカウントだったんだよ。……だから、真を救ってくれた『コウ』は、もうこの世にいない」

「──えっ……?」

「今『コウ』として配信してるのは、実は……俺なんだ」


 真が目を見開いている。やっぱり、自分の好きな人が亡くなっているって聞かされたら、ショックだよな。しかも、俺と言う人間が嘘をついて、『コウ』をやっているなんて、さらにショックで……許せないかもしれない。


「朝陽。あの──」

「あの日、言えなくてごめん……! 真は俺の気持ちに気づいてたんだな。そのことに今、気づいたよ。本当に察しが悪い自分が嫌になる」

「ちょっと待って……オレが朝陽の気持ちに気づいてたって、どういう──」

「いい! ちゃんとわかってる! ただ……まだ、俺にも心の整理をする時間が欲しいんだ」


 真が眉を寄せながら、俺のことを見つめてくる。俺は、自分の顔の前に両手を出し、待ったをかけた。

 もうわかっているから、それ以上は何も言ってくれるな、とアピールする。


 ホームルームの始まりを告げるチャイムが聞こえる。

 俺は、「教室に戻ろう」と真を促した。しかし、あいつが動かない。もう一度声をかけようとしたそのとき、真がズンズンと大股でこっちに向かって歩いてきた。


「──朝陽!」


 顔を上げ、キッと睨みつけてくる。数十分前、教室で会ったときと同じ顔をした真だった。

 真が目の前で足を止めたと思ったら、俺のネクタイをぐっと引っ張った。

 引き寄せられるように顔が近づいて、ゴンッと強く互いの額がぶつかる。


「いっ──!? な、なにす……!」


 そんな俺の言葉なんて無視して、真の唇が──重なった。

 ほんの一瞬、俺の世界が止まる。


(──!?)


 唇が離れていく。頭が真っ白になった。

 混乱を極めた俺は、自分の身に何が起こったのか、まったく理解できない。


「ごちゃごちゃと考えすぎ! お前にはストレートにぶつけるのが一番だって、よーくわかった!」

「まこと……?」


 真が人差し指で俺の鼻をくいっと押す。


「オレ、お前のことが好きだから。だから、覚悟しておけよ! 絶対に落とす!」


 そう言うと、真は屋上の扉を開いて階段を下りて行った。俺はといえば、その場に座り込んで、口元を右手で覆った。


 今、一体何が起きたんだ……?

 もう、頭の中がぐちゃぐちゃだ。わけがわからない


 ──オレ、お前のことが好きだから。


 真が好きな人が俺……?

 真が好きなのは兄貴じゃなかったのか?


 わからない。まったくわからないけど……一つだけわかっていることがある。


 ──覚悟しておけよ! 絶対に落とす!


「真が、かっこよかった……」


 頬が熱い。ホームルームが始まるから教室に向かわなきゃいけないのに、顔が熱すぎて、このままじゃ教室に入れない。


 ああ、くそっ……! 負けた。

 ウジウジとした俺の背中を、力強く叩いた真がかっこよすぎた。


「惚れ直すしかないだろ……あんなのっ!」


 完敗だ。俺が惚れた男は、顔だけじゃなかった。中身まで、ズルいくらいかっこよかった。

 知ってはいたけど、改めてやられてしまった。


(……このままでいいのか? 俺は)


 やられっぱなしでいいのか──と、自分に問いかける。


 俺はしばらくその場にうずくまったままでいた。しばらくして、顔の火照りが収まったところで、ホームルーム中の教室に戻る。先生に「すみません」と謝ってから席に着いた。吾妻がそっと振り返る。


「珍しいじゃん。どうしたんだよ?」

「……トイレで一人反省会してた」

「トイレで反省……?」


 眉をしかめる吾妻に向かって、俺は肩をすくめて誤魔化してみせた。


 先生が「吾妻!」と発し、吾妻は「やべっ!」と言って前を見る。

 やがてホームルームが終わり、一限目が始まった。ふと、窓の外を眺めてみる──すると、雲の切れ間から太陽の光が差し込んでいたのだった。

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