8ゲーム目 仕方ない
「ゴブリン、本当にいる」
「だろ?」
「そもそも地図もないのに、一直線によく迷わないわね」
「ふ、ゲームのフィールドくらいは頭に入っている」
「はあ……開発者は違うってことね」
俺はその言葉にサムズアップで答える。
そんな俺たちは、とある洞窟に来ていた。
都市から、それなりに離れてはいるが、迷わなければ、簡単に来られる。
そんなここは森の中だった。
「ゲームだから、虫が出ないのはいいけど」
「そうだな。あんまり気持ち悪い系を出すのは、こういうゲームではよくないしな」
「じゃあ、さっさといく?」
「いや、ちょっと試したいことがあってな」
「よくないことじゃないでしょうね?」
「違う、違うからな」
俺はその場でぐるぐると周り出す。
そんな俺を見て、何をしているのかと疑問に思ったのだろう。
「何をしてるわけ?」
「何って、決まってるだろ?技だ」
「技って言われても、その場でぐるぐるしてるだけじゃん」
「これが意味のあることなんだよな」
俺はそう言葉にするのだが、亜紀はバカを見ているようだ。
ぐるぐるとしていると、ほんの少し酔う気がしてきた。
かれこれやること三十九回。
俺はこのタイミングで止まると、そのまま洞窟に手をかけた。
するとどうだろうか、手は洞窟に吸い込まれるようにして、入っていく。
「おー、このバグも生きてるな」
「はあ?!」
「すごいだろ?」
「すごいけど、どうなってるの?」
「すり抜けだよ、すり抜け。普通とは違う行動をすれば、バグが発生するからな、その一つだ」
俺は笑って言う。
このバグ技というのは、遊びで見つけたものだ。
当たり前だが、洞窟の前でぐるぐると回っているやつらなんて一人もいないだろう。
これからも、そんなことをするやつらなどいるはずもない。
ま、効率を考えれば、あるかもわからないようなこういう技を駆使するのは、そもそも間違っているからだ。
でもだ……
「便利なものなら、使わないと損だろ?」
「はあ……あんたって、もう少し自重ってものを知らないの?」
「ふ……どうだ?俺つえええ、最強だとわかったか?」
「ううん、やってることが傍から見てキモイ。あと、そういうことを言う人は油断してやられる」
「おま、なんてことを言うんだよ」
「だって、本当のことじゃん」
かなりバカにされたが、こういうことができるから技を調べるのが楽しい。
それに、バカにされようが、これを使うことであることができる。
「誰にも見つかることもなく、さっさとクリアするにはこれが一番いいんだよ」
「そうなの?」
「ああ、そうだ。ゴブリンがいる場所っていうのは、聞いたよな」
「まあね。この壊れたトーテムがある場所でしょ?」
「そうだ。というか、壊したになるけどな……ちなみにこいつは他にもある」
「え?」
そう、今回のゴブリン退治というメインストーリーをクリアするには、ただゴブリンを倒すというわけではない。
ゴブリンの王である、ゴブリンキングを倒す必要があるのだ。
そして、そんなゴブリンキングはというと、全てのトーテムを結んだ真ん中にありトーテムもゴブリンマジシャンというものが隠しているので、自力で見つけるためには結界を破壊するしかない。
結界を破壊するには、周りにあるゴブリンマジシャンがいる洞窟で、マジシャンたちを倒し、結界を破壊するというものだが……
まあ、ゲームをわかっていれば、そのすべてをスキップ可能だ。
まず、ゴブリンキングが隠れている場所というのは、最初から固定のため、地図さえ完璧に覚えていれば迷うことはない。
どこに何があるのか?
地図の配置決めをしたのもほとんどは俺なので、覚えている。
そして、次に結界だが……
「あたしがやろうって言ったのが、よくなかった?」
「なんでだ?」
「だって、さすがにこんなにバグと言っちゃえばいいのか、仕様って言っちゃえばいいのかからないけど、あるとは思ってみなかったから」
「言われてみれば確かにそうだな」
そう、結界も通過する方法は簡単だ。
普通に結界はプレーヤーを通すことはない。
そして、結界の外から石などを投げたところで、石は弾かれてしまう。
だけど、ここに注目するところがあった。
そう、木だ。
石に関しては、生えてくるなどということはないが、木に関しては時間が立てば新しく生えてくるという仕様にしたのだ。
では、それが何を意味するのか?
「だけどな、いろいろ破壊してるのは、亜紀だからな」
「え?だって、面倒だったんだもん」
「かわい子ぶったところで、やったことに変わりはないからな」
「え?ちょっと、木を倒しただけでしょ?」
「そうなんだけどな。さすがに倒す木をもう少し選ぶとか……」
「はいはい。だけど、入れなくなったのは予想外かな」
「だから、バグ技で入るしかないっての」
俺はそう言い切る。
本当であれば、ある程度の距離を測りながら、倒す木を選ぶ。
今回の仕様というのが、木であれば下から生える。
そんな木も寿命が来れば倒れる。
というものを人工的に引き起こすことだ。
それを亜紀に説明した俺は、木の選定に入る予定だった。
だけど、俺よりも脳筋の亜紀は当たり前のように木をスキルで切り倒したのだ。
亜紀の声が聞こえたときには、木は倒れ初めていた。
そして、トーテムごと洞窟の入口を破壊したのだった。
だから、俺はなんとかして洞窟に入るためのバグを使ったのだ。
俺は亜紀に向き直るという。
「やり方はわかったか?」
「やらないとダメ?」
「当たり前だろ?これをやらないと、そもそもこのストーリーが進まないからな」
「仕方ないな」
そうして、俺たちは二人でぐるぐると回り、洞窟へと侵入したのだが……
「おい、助けてくれ……」
「何をやってんのよ」
「仕方ないだろ?バグが途中できれるとか聞いてない」
「だから、あたしのようにさっさと走っていけば」
「いや、速すぎんだよ」
俺は洞窟の中で岩に挟まっていた。
これは完全に油断していたからだ。
バグ技を使うことで、洞窟内にあるセーフティーゾーン。
言ってしまえば休める場所にたどり着くために進んでいた。
ある程度進む方向を教えていたためさっさと進んで行ってしまったのだ。
俺は余裕をもって、セーフティーゾーンに向かっていた。
だが、だがだ……
最後に下半身だけが洞窟に挟まって出られなくなってしまったのだ。
「た、助けてくれ……」
「いいけど、どうすればいいの?」
「破壊するしかないよな」
「だね」
そして、破壊……
「って、なんでそんなに超火力で攻撃をするんだよ!」
「え?」
こうして俺たちは落石をかわしながらも、なんとかして出口に向かうことになったのだ。
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