強引すぎるNTR騒動
しばらくして、リリアは獲物を見つけたかのように視線を定める。
そこにはきらびやかな衣装を身につけた王太子らしき男性と、その腕にしっかりつかまる麗しい令嬢がいた。
近くの人々の話をこっそり聞けば、どうやらその令嬢は王太子の婚約者らしい。
「いいわね。その王太子とかいうの。寝取ってみたいわ」
リリアがさらっとぶっ飛んだことを口走り、春人は思わず盛大に咳き込む。
「げほっ……寝取って……NTRか!? おいおい、これコメディで済むのかよ」
「知らないわよ。実際にやらなきゃわからないじゃない。悪徳令嬢なんだから、そのくらい大胆にいくわ」
王太子と目が合ったリリアは、妖艶な笑みを浮かべてずかずかと近づいていく。
王太子の腕にしがみつく令嬢はたちまち青ざめて後ずさった。
「は、はじめまして……どちらさま……?」
王太子が恐る恐る声をかけると、リリアは扇子で口元を隠してくすくす笑う。
「この国の風習には興味ないんだけど、素敵な殿方がいると聞いたものだから、つい来てしまったの。わたくし、あなたに興味があるわ。どうかしら? 他の誰よりも、私と踊る方がよっぽど刺激的だと思わない?」
周囲の貴族が目を丸くして見守る。
王太子の婚約者は「あ、あの……やめてください……」と泣きそうになりながら訴えるが、リリアはすでに王太子の腕を摑んで強引に引き寄せようとしていた。
「え、えぇっ……そ、そんな……!」
「きゃあ、王太子様が……寝取られる!?」
会場はあっという間にドタバタ状態。
NTRなんてスキャンダル要素が飛び交い、貴族たちが悲鳴やざわめきを上げる。
そんな中、ヴォイドは「いくらなんでも直球すぎるだろ……」と小声でこぼす。
「いや、おれも悪役の立場だけど、こんな無茶苦茶なNTR劇なんか関わりたくないぞ……」
「わ、私も隅っこで見てるだけだし……どうすればいいのやら」
モブ子はトレーを抱えたまま、おろおろと立ち尽くす。
そして春人は必死に止めに入ろうとするが、リリアは耳を貸さない。
「ざまぁって言われるのも厭わないわ。むしろ“寝取られざまぁ”なんてスパイスもありなんじゃない?」
「意味がわからん……刺激的を通り越して笑えないぞ!」
王太子が顔を真っ赤にして抵抗すると、リリアはふいに手を放し、悔しそうに舌打ちした。
ドタバタでワイングラスが倒れ、床が滑って思わず転倒しかける王太子。
見事に滑り込むように隣のテーブルが倒れ、周囲は阿鼻叫喚の渦だ。