悪役令嬢が仕掛ける、はじめてのパーティ
白い光が消えた瞬間、春人はふかふかしたカーペットの上に放り出されていた。
耳をすますと、きらびやかな音楽が鳴り響いている。
顔を上げると、そこは豪奢なシャンデリアがぶら下がる広間らしく、煌びやかなドレスの令嬢やタキシードの貴公子が舞い踊っている最中だった。
「おいおい……今度は貴族の舞踏会か?」
春人が床から立ち上がり、まわりを見回していると、リリアの姿が目に入った。
前の世界よりもさらにゴテゴテした宝石だらけのドレスを着込み、あからさまに“悪役っぽい令嬢”を気取っているようにも見える。
「ふふん。やっぱりこういう華やかな社交界は映えるじゃない。私はここで“悪役令嬢”をとことん楽しむの」
リリアは扇子をバタリと開き、周囲を見下すように口元をつり上げる。
ヴォイドはというと、漆黒のマントに上品な金細工が施された礼服を合わせられていて、いかにも“闇公爵”めいた雰囲気を漂わせている。
だが苦々しそうに唇を曲げていた。
「なんで俺はまた“よくある悪の貴族”にされてるんだ。前と変わらんじゃないか……」
「わ、私なんて相変わらず地味な侍女服……いや、メイドドレスにリボン追加されてるだけです。こんなの嫌ですよ」
モブ子はトレーを抱えたまま、恐縮した様子でうろうろしている。
そんな中、春人は場の空気を読み取るように深く息を吸う。
「ま、悪徳令嬢をやりたいってリリアが言ってたし、ざまぁとNTR要素もきっと混ぜられてるんだろう。大丈夫かな、すごく嫌な予感しかしないんだけど……」
話す間にも、リリアは舞踏会の中央へ優雅に進み出る。
ドレスを翻しながら、集まった貴族たちに不敵な笑みを向け、宣言するように声を張り上げた。
「皆様、ごきげんよう。わたくしリリア・フォルテ――この国一番の名家の令嬢ですわ。さあ、退屈な舞踏会を盛り上げて差し上げますわよ?」
周囲の貴族がぎょっとしてざわつく一方、リリアは楽しくて仕方ないという様子で高笑いをしていた。