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作者の作った異世界設定が気に入らない  作者: さば缶
第1章:はじまりは“ベタな剣と魔法の世界”
3/15

作者への直談判と世界の崩壊

 王都にたどり着いたころ、リリアの足取りはやけに荒くなっていた。

石畳を鳴らすヒールの音もどこか苛立ちを含んでいる。

ヴォイドはその後ろを無言でついて来るが、表情にはうっすらと不満がにじんでいた。

モブ子は落ち着かない視線を走らせながら、春人のすぐ傍を歩く。


「ねえ、リリア。こんなに焦って王宮へ行って、何をするつもり?」


「作者とやらを呼び出して、さっさと今の設定を変えさせるのよ。正直、弱小王国の王女なんて退屈だわ。もっと盛り上がる要素を入れてほしいじゃない。例えば、悪役令嬢やりたいわ。他にもNTRとか入れて。ざまぁ展開も良いわね」


「悪役令嬢とかNTRとかざまぁ展開? 荒れそうだけど、そんなの入れちゃって大丈夫なのか?」


「いいの。どうせ同じような剣と魔法の世界を延々やっても飽きるだけだし。刺激がないと退屈なんだから」


 モブ子は眉を下げながら、ぎゅっと帽子を握りしめる。


「わ、私なんて、ずっとモブ扱いです。どうせ誰も覚えてくれない村娘や召使いとか、そんな役ばかりですよ。作者は意地が悪いと思いませんか?」


「そんなこと言ったら、俺だって嫌なんだぞ」


 低く抑えた声でヴォイドが口を挟んだ。黒いマントを揺らしながら、どこか言いようのない憤りが垣間見える。


「悪役にされるのは別にいいとしても、いかにも『魔王』とか『世界征服』とか、テンプレのまま押し付けられるのはごめんだ。そんな雑な悪役、やりたくないんだよ」


「あー、じゃあメンバー全員、何かしら不満あるわけね」


 春人は半ばあきれた様子でうなずいてから、王城の扉を見上げる。

兵士にとっては不可解な集団だろうが、リリアが王女という身分のためか、何の咎めもなく通されてしまった。


「本当に作者を呼ぶのか? 城の中で叫んで出てくるような相手じゃないだろ」


「呼べるか呼べないかなんて知らないわよ。でも噂じゃ、キャラが文句を言うと世界が書き換わるって話でしょ?」


 リリアは王城の奥まった大広間へ足を踏み入れると、天井の高い場所に向けて声を張り上げる。

華やかなシャンデリアがきらめき、衛兵たちが不安そうに視線を送るなか、お構いなしだ。


「作者ーーー! いるんでしょ? ちゃんと姿を見せなさい! こんなのつまらないから、もっとド派手に設定変えなさいよ!」


「うわあ、思いきりすぎだろ。衛兵も唖然としてるじゃないか」


春人は周囲の視線に耐えきれず、苦い顔をする。モブ子はおどおどしながらリリアの袖を引っぱった。


「ほ、本当にそんなに簡単に世界って変わるものなんでしょうか? ざまぁ展開とか、NTRとか、うまくいくのかもわからないし……」


「わからないから言うのよ。どうせこのままじゃ、ヴォイドは魔王扱いされるだけだし、私が王女やってても冒険も波乱もない。あなたもずっと脇役に甘んじるの? それなら私は嫌よ。もう盛り上げてちょうだいって叫ぶしかないわ」


 すると、遠くの壁からかすかなきしむ音が聞こえた。広間のシャンデリアがわずかに揺れ、柱に飾られた彫刻がぼんやり光を放ち始める。


「な、なんだ? 世界が……本当に変わるっていうのか?」


春人が戸惑いの声をあげると、ヴォイドがマントを翻してリリアのそばへにじり寄る。


「悪役押し付けられるなら、もう少し凝った設定にしてもらいたいが……こう急に揺れると嫌な予感しかしないな」


「いいのよ。作者ってのが私たちの声を聞いてるなら、さっさと応えてもらいましょう。ほら、刺激的な要素を入れろって言ってるのよ!」


 リリアの叫びと同時に、床から白い光が昇り始める。まるで靄のような幻影が、広間の一角を覆い尽くしていく。衛兵たちが動揺する声を上げる間もなく、空間がぐにゃりと歪んだ。


「や、やばいって! これどうなるんだよ!」


春人は思わずリリアの腕を取ろうとするが、足元が震動して体勢を崩す。モブ子が悲鳴をあげて転びかけ、ヴォイドがそれを支えるように腕を伸ばした。


 しかし、もう何もかも手遅れらしい。柱や壁がまるで溶けるように形を失い、大広間は白い閃光の中に飲み込まれていく。リリアはわずかな緊張を覗かせながらも、唇を曲げて笑みを浮かべた。


「やっと退屈な世界からおさらばできるのかしら。ざまぁ展開でも何でも、スパイスが効いたやつをお願いするわよ、作者ーーー!」


「――ラノベの登場人物が作者に文句言うなんて、果たしてアリなのか」


 そうボヤく春人や、ヴォイド、モブ子の姿も呑み込まれ、足元の感覚さえ霧散していく。

透けるような空間の奥から、不思議な音が響いてくるなか、リリアの最後の声だけが耳に残った。


「悪役令嬢でもいい、NTRだって構わないわ! とにかく盛り上げてちょうだい! ――作者!」


 そして意識が途切れると同時に、王宮と呼ばれた場所の景色は粉々になって消えた。

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