全員のハーレム展開
町の中心には賑やかな酒場があった。
ピンクや水色で彩られた可愛い看板が掲げられ、中に入るとメルヘン調の装飾が目に飛び込んでくる。
客層は女性が多めで、ふわふわのドレスを纏った人や、天使のような羽を飾りにつけた者も見受けられる。
外で襲いかかられそうになった春人(♀)とヴォイド(少年)を緊急避難させるように、リリア(♂)がたどり着いたのがこの酒場だ。
「まるでおとぎ話の世界…しかも客の半数以上が女性? さっきのショタコンお姉さまが追ってきてないといいけど……」
春人(♀)が周囲を見回すと、リリア(♂)はへっちゃらな顔で腰かけ、王子様スマイルを振りまく。
すぐに店の女性客が気づき、こそこそ話したあと、キャーッと小声で盛り上がりながら近づいてくる。
「さっきは思いっきりモテモテだったじゃないですか、リリアさん。見事に女性ファンができてましたね」
モブ子はどこか羨ましそうな目を向ける。一方のヴォイド(少年)は、さっき逃れてきたばかりでまだ顔色が悪い。
「勘弁してくれ……大人の女性が寄ってきて、ショタ扱いで可愛がろうとするんだ。おれはそんな趣味ないんだよ。背筋が凍る思いをした……」
「モブ子、ちょっとヴォイドの周りをガードしてあげて。ああいうお姉さま方にロックオンされたら逃げられそうにないから」
春人(♀)が汗を浮かべてそう言うと、モブ子は「ま、任せてください!」と緊張気味に答える。
ただ、モブ子自身も地味な格好ゆえか、他のお客からはいまいち気づかれておらず、実際どこまでガードできるかは微妙なところだ。
その間にも、リリア(♂)は酒場の女性客たち数名をうまく引き寄せ、あれよあれよという間に輪を作り始める。
笑顔で対応するたびに「素敵!」「お話上手!」と歓声が上がり、すっかり人気者だ。
「男主人公ハーレムって、やっぱりいいものね。積極的な女性たちに取り囲まれて、優越感がすごいわ」
「いやいや、それはそれで事件のにおいしかしないぞ。ほら、春人さんのほうにも男たちが目をつけてるし…」
ヴォイド(少年)が視線を飛ばした先には、すでに3人ほどの男が春人(♀)の姿を遠巻きに見つめている。
さっき町中で声をかけてきた連中と似た匂いがする。
春人(♀)は緊張を浮かべながら「そんな…女になった途端にイケイケな男に囲まれるとか困るって。おれ、ほんとどうすればいいんだ…」と肩を落とす。
「そこのお嬢さん、随分と美しいねえ。よかったら今度、俺たちと連れ立って踊りにでも行かない?」
声をかけてきた男が気取った感じで春人(♀)を囲み始め、彼女(彼)は青ざめながらグラスを握りしめる。
急いで隣に座っているヴォイド(少年)のほうを振り返って助けを求めようとするが、ヴォイド(少年)のほうもまたショタコンお姉さまが「もう逃がさないわよ~」とにじり寄ってきて大ピンチに陥っている。
「うわああん、助けてくれ! おれはショタなんてやりたくないんだ…!」
騒がしさに拍車がかかり、店主は「あんたたち、一体何の騒動を持ち込んでるんだ…」と頭を抱える。
リリア(♂)はそれらを遠目に眺めつつ、好き勝手に女性客と盛り上がり中で、まったく助ける気配がない。
「どうなってるんだ、このTSファンタジー……」
春人(♀)は男たちの手から逃げるように椅子を移動させ、なんとか安全地帯を確保しようと必死だが、男のほうも「そんな恥ずかしがらずにさ~」などとしつこく食い下がってくる。
「もうムリ! モブ子、助けて!」
「すみません! 春人さんは…その、あの、まだ心の準備が…!」
モブ子もわたわた動くが、結局混乱を止めきれないまま、店内はわけのわからないドタバタ状態へ突入してしまった。




