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第7話

 俺は着替えのために一旦自室に向かった。

 部屋に入るとカバンをベッドの上に放り投げスマホを確認。

 すると土屋さんから着信が入っていた。

「あれ、土屋さんからだ……」

 明日も会えるのに部長からの電話。

 急用だろうか。一応文芸部のみんなと連絡先を交換しておいてよかったな。

 俺は土屋さんに折り返し電話をかけてみた。

『あっ真柴くん』

 電話口に土屋さんが出る。

「俺、電話もらいましたよね。何か用ですか?」

『ごめんな、真柴くんに電話させてもうて』

「いえ、別に大丈夫ですけど」

『今日ちょっとうち熱なってもうて真柴くんに失礼なこと言ったんちゃうかなぁって気になって……』

 超能力会議の時のことだな。

「全然そんなことないですよ。土屋さんは何も失礼なことなんて言ってませんよ」

『ほんま? はぁよかった~』

 安堵のため息がもれてくる。

『真柴くん、うちのこと変に思うてたらどないしようって不安やったんや』

「はぁそうですか」

 さくらが超能力者だと本気で信じている点ではおかしいとは思っているが、それ以外ではごく普通の女子高生だ。

「良太ー、ご飯よー!」

 と母さんの大きな声。

 それが土屋さんにも聞こえたらしく、

『ふふっ、あ、ごめんな、じゃあそろそろ切るわ。ありがとうな真柴くん』

「あっいえ……」

『また明日な~』

 早々に会話を切り上げた。

 俺はスマホをベッドの上に置くと部屋着に着替えてから下へと向かった。

 そして夕飯を食べ終えると、俺は風呂が沸くまでの間リビングでくつろいでいた。

「文芸部はどうだったの?」

 洗濯物を畳みながら母さんが訊いてくる。

「うん。まあまあ」

「まあまあって何よ? 部の人たちはよくしてくれた?」

 答えに困る質問だ。

 基本よくしてくれてはいるが一人とんでもない後輩がいるんだ。

 そいつは俺のことを呼び捨てにしたりタメ口で話してくるんだ。

 しかも自分のことを超能力者だと言ってきかないんだ。

 ……なんてことは口が裂けても言えない。いらぬ心配をさせるだけだ。

 俺は意外と親孝行したいタイプなのだ。

 だから「ああ、みんなよくしてくれるよ」と言っておいた。


 翌日学校でちょっとした事件があった。

 いや、事件というほど大それたものではないのだが、学校にある桜の木が満開に咲き誇っていたのだ。

 もちろん春ならば当たり前のことなのだが、今の季節は秋真っ只中。

 どう考えても異常な光景だった。

 昼休みには地元のテレビ局が取材にやってきたり、近くの住人が押し寄せたりと局所的にではあるが一時パニックになった。

 そして放課後。

「あたしがあの桜を咲かせたのよっ。きれいでしょ!」

 ここは文芸部の部室。

 俺と土屋さんと高橋と流星が各々学校の宿題や読書や勉強に励んでいると、遅れてやってきたさくらがこう言い放ったのだ。

 はいはい、言うと思ってたよ。

 お前の超能力なら秋に桜を咲かせることくらいわけないよな。参った。降参だ。

 俺はあきれながらさくらを見上げた。

 さくらの顔には校庭の桜と同じように満面の笑みが咲き誇っている。

「あのなぁお前――」

「姉さん、力を誇示するのはよくないって言ったよねっ」

 と流星が俺の言葉をさえぎるように声を上げた。

「うちはみんなが喜んどるからええと思うけどなあ」

 と土屋さん。

 さらに高橋は、

「……昨日、力は使うべきではないと言ったのに」

 と眼鏡をくいっとさせながら口を開いた。

 おいおい、お前らのそういう発言がこいつを助長させているんだぞ、わかっているのか。

 そんなことはこいつのためにはならないと思うぞ。

「昨日布団に入ったあと良太の言ったことを考えてみたのよ。それで思いついたの。学校の桜を満開にしてみたいって」

 さくらは俺を見下ろしながら言う。

「さくらだから桜を満開にしたっていうのか?」

「その通りよっ。粋でしょ」

 ご主人様に褒めてほしそうな忠犬のような表情で俺をみつめる。

「粋かどうかはわからんが、あれをお前がやったって証拠はどこにあるんだ?」

 最近の異常気象が原因かもしれないだろ。っていうか多分そうだし。

「え……どういうことよ。証拠も何もあんたは私のこと信じてたんじゃないの……?」

 さくらの表情が一変し、怒りと哀しみの混じった顔になる。

「あんたが自分のために超能力を使えって言ったからやったのにっ。それなのに何よ、良太のバカッ!」

 さくらは部室のドアをバンと開け放ち出ていってしまった。

 急に静かになる室内。

 他の三人が俺をじっと見てくる。

「なんだよ、俺はあいつのためを思って言ってやったんだぞ」

「真柴くん、メール見てへんの?」

 土屋さんが悲し気な顔で訊いてくる。

「? メールがどうかしたんですか?」

「姉さん昨日の夜、文芸部員全員にメールを送ったはずなんです」

「……一斉送信でわたしにもきた」

 流星と高橋も言うがなんのことかわからない。

「メール確認してみて」

「はぁ……」

 俺は土屋さんに言われるがまま、スマホをポケットから取り出しメールを確認した。

 すると昨日の夜十一時半にさくらからメールが届いていた。

 開いてみる。

 [――文芸部員一同へ――

 今日の良太の言葉で思いついたことがあるの。

 あたしの名前はさくらでしょ、あたし自分の名前結構気に入ってるのよね。

 だから文芸部のみんなにサプライズプレゼントをしてあげるわ。

 明日校庭の桜の木を見てちょうだい、きっと驚くから。風邪ひいても学校には来るのよ、いいわねっ。]

 そこに書かれた文面からは、さくらが楽しそうにメールを打つ顔が容易に想像できた。

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