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ようこそ、文芸部へ  作者: シオヤマ琴


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第26話

「ここでいいわよ」

高木が不意に言った。

「え、ここってまだ遊園地を出たばかりだぞ」

「うん」

バス停の前で高木は辺りをきょろきょろ見回す。

そして、

「実は迎えの車が来てるの。ほら、あれがそう」

道路の向かいにとまっている一台の黒い高級車を指差した。

高級車はプッとクラクションを鳴らす。

「じゃあ私行くわね」

「あ、ああ」

高木は手を上げながら横断歩道を走っていく。

そして、車に乗りこむと車の窓から顔を出した。

「今日は本当に楽しかったわ! ありがとー!」

大きく手を振った。

「ああ、また月曜日にな!」

「うんっ!」

高木は今日一番の笑顔を見せ、車で去っていった。

「ふぅ……これで仮のデートも終わりか」

なんか夢みたいな時間だったな。

心にぽっかり穴が開いたような気がしているが、多分気のせいだろう。

「さっ、あとは流星だな……」


高木の言う通り翌日の日曜日、俺は流星の家を訪ねてみた。

すると、

「あれ、真柴先輩どうしたんですか?」

流星が何事もなかったかのように出迎えてくれた。

「お前……なんともないのか?」

「え? どういうことですか?」

「いつからいたんだ?」

俺は流星の腕を掴んだ。

「はい? ずっとうちにいましたけど……真柴先輩、大丈夫ですか?」

「ん、ああ。いや変なこと言って悪かった」

流星は問題なく前と変わらずにそこにいた。

約束通り高木がなんとかしてくれたようだった。

ありがとう、高木。

「良太、あんた朝っぱらから何してんのよ、人ん家の前で」

流星の後ろからさくらが顔を出す。

パジャマ姿でぼさぼさの頭を掻きながら俺の前に出て来ると、

「何してんのって訊いてるのよっ」

睨みつけてくる。

俺と同じ背丈の上、目力も半端ないから迫力がある。

「すみません、真柴先輩。姉さん寝起きは機嫌が悪くて……」

いや、寝起きだからっていう問題か、これ?

「流星は元気かなと思っただけだ」

「それなら電話で済むじゃない、バカじゃないの」

高木が家に行ってみろって言うから来たんだよ。

「じゃあ流星、また明日部室でな」

「あ、は、はい。ではまた明日」

「ちょっと良太、あたしを無視するんじゃな――」

バタン。

うるさいからドアを閉めてやった。

だが、さくらの場合、パジャマ姿でも追いかけてくる可能性は充分あるからさっさと退散しよう。


そして翌月曜日の朝。

「一昨日神宮寺駅前で真柴氏をみかけたでござるよ」

学校に着くと織田と下駄箱で出くわした。

「なんだ、それなら声かけてくれればよかったのに」

「そうしようと思ったのでござるが、ちょうど高木氏が現れたので遠慮したのでござるよ」

そうか。一昨日といえば駅前で待ち合わせして高木と遊園地に行ったんだったな。

「遠慮なんて必要なかったのに。高木とはただの成り行きで一緒に出掛けただけだぞ」

「むふふ。拙者だってこう見えて気が利くのでござるよ」

織田が自慢気に鼻を鳴らす。

遊園地に行ったなんて言ったら余計誤解しそうだからここは黙っておくか。

教室に入るとまだ高木の姿はなかった。

高木にも一応釘を刺しておこうと思っていたのだが。

まあ、登校して来たら言えばいいだろう。

しかし、高木が来る前に先生が教室に入ってきてしまった。

珍しいな。優等生で通っている高木が遅刻するなんて。

すると教壇に立った先生は開口一番こう言った。

「えー、まずは残念なお知らせがあります……高木みさとさんが海外の学校に転校しました」


「高木さんが転校!?」

「みさとちゃんが海外って?」

「みっちゃん何も言ってなかったよ……」

「先生、高木が転校ってどういうことですかっ?」

 クラスのみんながざわつく。

 当然だ。クラスのマドンナが突然誰にも何も言わずに転校だなんて。

 先生が口を開いた。

「高木さんは一昨日の土曜日にご両親の仕事の都合でドイツに発ちました。いつ帰って来れるかはまったくわからないそうです。クラスのみんなには別れがつらくなるから黙っているようにと言われていました」

「そんな……」

「教えてほしかったのに……」

「落ち着いたらクラスに宛てて手紙を書くと言っていましたから、待っていましょうね……はい。では一時間目の授業に備えてください」

 それだけ言うと先生は退室していった。

 クラスのざわめきが収まらない中、織田が近付いてきて顔を寄せる。

「真柴氏、知っていたでござるか?」

「いや……何も知らなかった」

「う~む。高木氏は拙者たちを繋げてくれた恩人だっただけに惜しいでござるな」

「ああ、そうだな……」

「……真柴氏、元気を出すでござるよ」

 織田は俺の肩に手を置いた。

「ん? 俺は元気だぞ」

 なんだ?

 俺はそんなに元気のなさそうな顔をしていたのか……?

「それならよいでござるが、ではまた」

「ああ」

 俺は席に戻っていく織田の後ろ姿に高木の後ろ姿が重なって見えた。

 車の中から俺に向かって手を大きく振る高木を思い出す。

 高木は俺と遊園地で別れた時、もう月曜日には会えないことを知っていたんだよな。

 ……まったく、あれこれ記念がどうとか言っていたのはそういうことだったのか。

 ため息交じりに椅子の背もたれに背中を預けると、ふと机の中が見えた。

 ……んん?

 ……机の中に見慣れない物があるぞ。

 俺はそれをそっと取り出した。

「あっ……」

 それは高木からの手紙だった。

 

[――真柴くんへ。ううん、良太くんへ――

 遊園地からの帰りの車の中で書いています。

 きみがこれを読んでいる頃には私はもう日本にはいないと思います。

 良太くんには話そうかとも思ったんだけど、やっぱり黙って行くことにしました。ごめんね。

 実は父の転勤の話は前々からあったんだけど、その度に私は超能力を使ってそれを白紙にしていたの。

 父がずっとドイツに行きたがってたことも私は知っていたのにだよ。我ながらひどいよね。

 今回父も母も私には日本に残ってもいいんだよって言ってくれたんだけど、さすがに両親と妹たちと何年かそれとも何十年か離れて暮らすのはちょっとね。

 ああ、言ってなかったけど私妹が四人もいるのよ。みんな私に似て可愛いから今度写真送るわね。

 少し話が脱線しちゃったけど……流星くんは戻っているかな? 戻っているといいんだけど。

 こればっかりはちょっと自信がないんだ。戻っていなかったらごめんなさい。

 とにかく私はもうきみのそばにはいないんだからね。

 今回みたいなことがあってももう助けてやれないんだよ、わかってる?

 ……うんうん。わかっているならそれでいいのよ。

 そうだ、ひまわりのブローチ大事にするからね。私の初デートの記念品だから。

 じゃあ、もう書くこともなくなったからこれで終わるね。

 追伸――ペア旅行券で誘う相手だけど私のおすすめは高橋さんかな。]

 

おすすめってなんだよ、まったく……。

 ……ありがとうな、高木。

 俺は手紙をそっと机の中に戻すと、教室の窓から見える青い空を眺めながら、心の中でそうつぶやいた。

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