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ようこそ、文芸部へ  作者: シオヤマ琴


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第23話

「……なるほどな~、そうやったんや。つまり超能力者はさくらちゃんやのうて、その流星くん? って子やったんやな。っていうか美帆ちゃんも超能力者やったなんてほんま驚きやわ」

「……」

「うちが念動力で美帆ちゃんは発火能力と念話が使えるんやね。発火能力ってなんかかっこええなぁ」

「……話を聞く限り、その流星って人はすごい力を持った超能力者だと思う。わたしの念話も効かないかもしれない」

「それで、流星を助けるには……元に戻すにはどうしたらいい?」

 俺を助けるために力を使ったせいで流星が消えてしまったのなら、俺がなんとかしないと。

「……わたしたちにはどうすることも出来ない。彼と同等か、それより強い力の持ち主じゃないと」

「せやったらうちには無理やな~。うちが出来るのはせいぜいこれくらいが限界やし」

 土屋さんは部室に並べられていた長テーブルを一つ宙に浮かせてみせた。

「じゃあ流星はこのままなのか……?」

 絶望が俺を飲み込む。

 だが、

「……わたしたちには無理だけど、どうにか出来るかもしれない人間なら心当たりがある」

 冷静に高橋が言う。

「それって誰なんだ?」

「……わたしには彼女の心が読めなかった。たぶん超能力でガードしていたんだと思う」

「彼女って……?」

 次に高橋の発した言葉に俺も土屋さんも驚きを隠せなかった。

「……高木みさと。彼女も多分超能力者。それも私たち以上の」


「はぁ~あ、失敗しちゃった。適当な心の声を作って代わりに読ませておけばよかったわね」

 高木さんが宙を見上げため息をつく。

 俺と土屋さんと高橋は、茶道部にいた高木さんを廊下に呼び出し、つい先ほど超能力者であることを問い詰めたところだ。

「ってことは高木さんはやっぱり超能力者なのか?」

「そうよ。私には確かに超能力があるわ」

 近くにいたのに全然気付かなかった。

「それはそうよ。私はさくらちゃんみたくバカじゃないもの」

 と薄ら笑いを浮かべる高木さん。

 なんか雰囲気がいつもと違う。

「違って当然よ、こっちが素の私。いつもの優等生の私はみんなの心を読んで望んだ振る舞いをしているだけよ」

「お前、もしかして今も俺の心を読んでいるのか?」

「ぴんぽーん。大正解。真柴くんて案外バカじゃないのね」

 人差し指で俺の鼻にちょんと触る。

「お前って本当は結構嫌な奴だったんだな」

「人の心が読めたらみんなこんなふうになっちゃうわよ。実際高橋さんもおかしいでしょ」

 そう言って高橋を指差す高木さん。

「俺、今のお前はあまり好きじゃないな」

「そう? でも私は真柴くんのこと好きだよ。だって心がきれいだもん……知ってた? みんなの心の中って実はすごく汚いし醜いのよ」

「へー、そうかい」

 愛の告白なら本性を知る前にしてほしかったな。

「残念。フラれちゃったみたいだね」

 全然残念そうに見えない笑顔で言う。

「それでその流星くん? のことだけど私も全然記憶にないのよねぇ。もう誰も憶えていないんだしこのままでもいいんじゃないの」

「俺が憶えているんだよ」

 まったく、なんで俺だけが憶えているんだろうな。

「みさとちゃん、力を貸してくれへんかな~。この通りや」

「……みさと、お願い」

 頭を下げる土屋さんと高橋。

 俺も二人にならって「頼む」と頭を下げる。

「そうねぇ……じゃあ真柴くんが私とデートしてくれたら協力してあげてもいいわよ」

「なんだそれっ。それが流星と関係あるのか?」

「全然ないわよ。でもさっきも言ったように私、真柴くんのこと結構好きなのよね。それに素の私も知ってもらえたからちょうどいいわ」

 どこまで本気なのか冗談なのかわからない。

 くそっ、俺も相手の心が読めたらなぁ……。

「そんなことでええの? せやったら全然オーケーやんな、真柴くん」

 土屋さんが俺の手を掴みぴょんぴょん飛び跳ねる。

「はぁ……」

「高橋さんもそれでいいかしら?」

「……仕方がない」

 高橋はいつもの通り無表情だが、少しだけ怒りの感情がにじみ出ているようにも見える。

 まあ多分気のせいだろう。

「じゃあ決まりね。次の土曜日十時に駅前で待っててね」

 そう言うと高木さんは俺の返事も聞かず茶道部のもとへと戻っていった。

「じゃあ流星くんを助けるためにも頑張ってな」

 俺の背中をぽんぽん叩く土屋さん。

 何をどう頑張れっていうんだ。

「……」

「高橋は? 何か助言はあるか? 一応あいつと友達なんだろ」

「……頑張って」

 その一言だけ言うと高橋は文芸部に向かって一人きびすを返した。


 土曜日、駅前にて。

 俺は高木さん、もとい高木を待っていた。

 本性を知った今となっては高木さんと呼ぶのはいささか抵抗がある。

「確かに十時って言ったよな……」

 スマホを取り出し時計を確認する。

 時刻は十時二十分。

 まさかすっぽかされたか……?

 高木の連絡先を知らない以上ここで待つしかない。

 俺はスマホのメール履歴を見た。

 昨日の夜、土屋さんから来たメールをもう一度眺める。

 それは絵文字がふんだんに使われた正直読みにくい文面のメールだったが、最後には[明日のデート、頑張ってな]と書かれていた。

 頑張れっていってもなぁ。デートなんてしたことないし、大体今日のこれは本当にデートなのか?

 はなはだ疑問だ。

 すると、

「おーい!」

 道路の向かい側から俺に向かって手を振る高木の姿が見えた。

 信号が青になると小走りで駆け寄ってくる。

 女の子らしいひらひらしたピンクのワンピースの上に茶色いジャンパーを羽織っていた。

 そして頭には猫耳のついた帽子。

 一体どんなセンスだ。

「真柴くん、待ったぁ?」

「すげー待った」

「え~、こういう時は俺も今来たところだよって言うんじゃないの?」

 俺の顔を下から可愛らしく覗き込んでくる。

 残念だがそのセリフは過去に使用済みだから、今のお前には使わない。

 高木は「ふーん」と急に真顔になる。

「それで今日は何をするんだ?」

「デートよ。言ってたでしょ」

「あのさ、なんで俺とデートなんかするんだ? 高木なら望めば誰とでもデートくらい出来るだろ……それとも何か魂胆でもあるのか?」

 俺とデートをする理由がまるでわからない。

「あっ今私のこと高木って呼んだ。昨日までは高木さんだったのに、どういう心境の変化なの?」

「別にいいだろ、それより俺の質問を無視するな」

「私が真柴くんとデートする理由? それも昨日言ったわよね、真柴くんのことが好きだって。何回言わせる気」

 だからそれが信じられないんだろうが。

 自分で言うのは気が進まないが、俺は勉強も運動も苦手だし、顔だって平凡なただのアニヲタだ。

「そういう謙虚なところも好きよ」

「俺の心を読むなよ」

 流星といいこいつといい、心を読まれていると思うと調子が狂う。

 変なこと考えられないじゃないか。

「変なことって例えばどういうこと?」

 高木がにやにやしながら俺の目を見てくる。

「だから勝手に心を読むなっ」


「いいか高木、次俺の心を勝手に読んだら俺は帰るからな」

「流星くんが助けられなくなってもいいの?」

「う……」

 人の弱みに付け込んできやがって……。

「ふふっ、冗談よ冗談。わかったわ、真柴くんの心はもう読まない。約束する」

 そう言って小指を差し出してくる。

 指切りのつもりか。

「……針千本、本当に飲ますとか言うんじゃないだろうな」

「何それっ? おっかしい」

 さくらはそのおかしいことをマジで俺に言ってきたんだけどな。

 指切りをすると高木は俺の手を取って歩き出した。

「あっ、おい……」

「いいからいいから」

 俺は高木に引っ張られる形でついていく。

 はたから見れば俺たちはおそらくカップルに見えているだろう。

 若い男女が手と手を取り合って一緒に歩いているのだから当然といえば当然だ。

「なあ、これどこに向かっているんだ?」

「いいからいいから」

 高木はさっきからそれしか言わなくなってしまった。

 目的地を知らずに歩き続けるというのは意外にストレスがたまるものだ。

「ちょっとくらい教えてくれたっていいだろ」

「うーん……しょうがないなぁ。じゃあヒントだけね」

 可愛らしく顔の横で人差し指を立てる。

 面倒くせぇ。

「今から行くところは暗い場所です」

「暗い場所?」

 どこだ?

 暗い……暗い……?

 う~ん……あっ、プラネタリウムかな?

 それとも……ベタに映画館か?

まさか、水族館てことはないよな……。

「わからない? 降参する?」

 と高木は可愛らしく訊いてくる。

 正直こんなしょうもないことでも降参なんてことはしたくないが、背に腹は代えられない。

「ああ、降――」

「ぶー、時間切れー。答えは教えてあげなーい」

 ぷいっと顔を背けた。

 なんだこいつは。

 明らかに俺をからかって楽しんでいる。

 自覚がある分、さくらよりたちが悪い。

「そんなむっとした顔しないでよ。こんな美少女とデート出来ているんだから楽しまなきゃ」

 自分で言うな。

 まあ確かに美少女という部分は否定はしない。

 さっきから男女問わず、すれ違う人たちが振り返ってこっちを見ているからな。

 一瞬、芸能人と見間違えているのかもしれないな。

「デートってこういう感じなのね、なんかドキドキするわね」

 俺の手を握ったまま大きく腕を振って混雑している繁華街を歩く高木。

 俺はこいつの目的が何かわからないことに不安でドキドキしている。

 何を企んでいるのだろう。

 とそこに立て看板を持ったメイドさんが話しかけてきた。

「ちょっとお時間いいですかぁ?」

「はい。いいですよ」

 高木は甘ったるい喋り方のメイドさんに愛想よく答える。

「ありがとうございますぅ。それでお二人はカップルさんですかぁ?」

「はい、そうです」

 おいっ。

「実は今うちのメイドカフェでカップルさん限定の催しをやっていまして、もしよろしかったら出てみませんかぁ?」

「えー面白そう。良太くん行ってみようよ」

「えっ……っていうか良太くんてお前――」

「ではカップルさん一組、ご案内しますぅ」

「さっ行こ行こ」

 俺の手をぎゅっと握り引っ張る高木。さっきも思ったが力強いなこいつ。

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