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第16話

 日曜日。

 俺は学校の校門付近で一人、他の文芸部員と高木さんが到着するのを待っていた。

 高木さんには金曜日のうちに俺から連絡しておいたから今日の水族館行きに参加することになっている。

「それにしても……なんで誰も来てないんだ?」

 俺は学校の校舎についた大きな時計を見上げる。

 集合時間は朝の七時半で、今の時刻は七時十五分。

 これではまるで俺だけが水族館を楽しみにしているみたいじゃないか。

 すると、

「おはよう、真柴くーん。今そっち行くから」

 通りの向こうから手を振る高木さんが見えた。

 横断歩道を渡り走ってくる。

 さすが高木さん。十五分前行動だ。

「真柴くん、待った?」

「いや、俺も今来たとこだから」

 女の子と待ち合わせした時に言ってみたかったセリフを言ってみた。

「今日は誘ってくれてありがとうね。私、一昨日真柴くんから電話もらってすごく嬉しかったんだぁ」

 私服姿の高木さんが笑みをこぼす。

 ギンガムチェックの上着に下はフレアスカート、いつも制服姿しか見ていないから新鮮に映る。

「私の恰好、変じゃないかな?」

「全然変じゃないよ。似合ってる」

「ふふっ、ありがと」

 ……平和だ。

 これが華の高校生の休日ってやつだな。

 俺が幸せをかみしめていると、

「いちゃついたら死刑」

 後ろから声をかけられる。

 振り返ると土屋さんだった。

「あはっ、さくらちゃんやと思うてびっくりしたんちゃう?」

 子どもみたいにけらけら笑っている。着ている服も子ども服みたいに見える。

「おはようさん真柴くん。あっ、その子が高木さんやね、今日はよろしゅうな。うちは部長の土屋みどりや」

「こちらこそよろしくお願いします。真柴くんと同じクラスの高木みさとです」

 握手をする二人。

「可愛い子やね~。さくらちゃんが見たらどう思うやろな~」

 と言いながら俺を見る土屋さん。

 そういうあなたも小動物みたいで十分可愛いですよ。

 その後、七時二十分に高橋が来て高木さんと挨拶を済ませた。

 高橋は休日だというのに制服を着て来た。高橋の私服姿も見てみたかったので少し残念だ。

 そして七時半を少し過ぎた頃、流星とその流星に手を引っ張られる形でさくらが到着した。

「すみませんみなさん、お待たせしてしまって。姉さんがなかなか起きてくれなくて……」

「あたしのせいみたいに言わないでよっ」

「普通に姉さんのせいだから」

 言い合う天馬姉弟。

 二人ともパンクロッカーみたいな上下黒の革素材で揃えていた。

 さくらは背が高いからか、意外とかっこよく見える。

「二人とも初めましてだよな、こっちが高木さん。でこの姉弟が天馬さくらと流星」

「よろしくね、さくらちゃん、流星くん」

「よろしく」

「よろしくお願いします」

 さくらは値踏みするように高木さんをぶしつけに眺める。正反対に流星は高木さんに向かって頭を深々と下げた。

 ……まあ何はともあれこれで全員集合したわけだ。


 水族館に向かう電車の中で高木さんは積極的に高橋に話しかけていた。

「高橋さんは水族館が好きなの?」

「……好き」

「水族館のどこが好きなの?」

「……くらげ」

「へ~、くらげが好きなんだ。私も好きだよくらげ、癒されるよね」

「……うん」

 おい高橋、もうちょっと気の利いたセリフを返してやれよ。

 オウムだってもう少し喋るぞ。

 だが高木さんもめげない。笑顔で、

「今日制服で来たんだね、どうして? 学校の制服好きなの?」

「……好き」

「今度一緒にお洋服買いに行かない?」

「……いい」

「それってどっちのいい?」

「……どっちでもいい」

「じゃあ来週の日曜日出かけようよ。これ私の電話番号だから」

「……うん」

 意外と押しが強い高木さんは、ちゃっかり高橋と買い物に行く約束をとりつけていた。

 その様子をなんとも言えない顔でみつめるさくら。

「高木先輩は気に入らないけど高橋先輩に友達が出来ることは喜ばないと、って考えている顔ですね」

 隣に座る流星が耳打ちしてくる。

 俺は小声で、

「お前、さくらの心を読んだのか?」

「いえ、姉弟なのでそれくらいはなんとなくわかりますよ」

「そうか」

 さくらが高木さんを嫌っている理由はよくわからないが、高橋のことは大事に思っているらしいな。

「あっ海や~」

 土屋さんは窓の外を指差し子どものように足をばたばたさせる。

「真柴くん見て、海やで~」

「そうですね」

「きれいやな~」

 確かに土屋さんの言う通り、太陽光が波に反射してきらきら海が輝いて見える。

 でもそんなことより、対面に座る土屋さんは短いスカートをはいているので、そんなに足をばたつかせると目のやりどころに困る。

 耐えきれず目線を斜め前にそらすとさくらと目が合ってしまった。

「何よ」

「いや別になんでもないが」

 目が合ったくらいでそんな喧嘩腰にならなくてもいいだろうに。

「流星、あとどれくらいで着くの?」

「乗り換えがあるからあと二時間ちょっとじゃないかな」

「遠いわねぇ」

 さくらは退屈そうに言う。

 俺には高橋に対してデリカシーがないとかほざいていたくせに自分でも似たようなこと言っているじゃないか。

「せやったらトランプでもせえへん? うちこんなこともあろうかといろいろ持ってきたんや」

 土屋さんはこじゃれたバッグをあさってトランプを取り出した。

「みどり、気が利くじゃないの」

「美帆ちゃんもみさとちゃんも一緒にやろうや~」

 隣のボックスシートに座る高橋と高木さんにも声をかける土屋さん。

「……」

「はい、ありがとうございます」

 無言でうなずく高橋と律義に礼を言う高木さん。

 トランプをシャッフルしながら、

「何がええかな~?」

 俺に訊いてくる。

「大貧民がいいわ。良太を大貧民地獄におとしいれてやるんだからっ」

 訊かれてもいないのに答えるさくら。

「さくらちゃん、大貧民は六人やとちょっと多ない?」

「そう? だったら七並べでもいいわよ。あたし八と六をせき止めるの大好きなの」

「お前なぁ、トランプを並べるスペースがどこにあるんだよ……土屋さん、ババ抜きとかどうですか? 六人でもできますし台がなくてもできるんで」

「せやな。ほんなら配るで」

 土屋さんは一人一人にトランプを配っていく。

「いいわ、ババ抜きでもあたしが圧勝してやるから。覚悟しなさい!」

 その後、宣言通り早々と一抜けするさくら。そしてそれに続き高橋もあがる。

「ほら見なさい、これがあたしの実力よっ」

「ババ抜きなんて百パーセント運だろ」

 もしくは流星が超能力を使ってさくらを勝たせてやったかだ。

 俺は横に座る流星を見るが、

「なんですか?」

 と素知らぬ顔で返される。

「いや別に……」

 その後もさくらの快進撃は続き、十回連続一抜けを果たした。

 ちなみに俺は十回連続びりだった。

 一回、二回ならともかく十回連続はあり得ない。流星の奴、確実にやってるな。

「おい、俺に恨みでもあるのか?」

 流星にささやく。

「すみません。姉さんの、ひいては文芸部のためなんです。姉さんが勝って真柴先輩が負けると姉さんは機嫌がいいのでつい……」

「だからってなぁ――」

「何こそこそ話してるのよっ。悪だくみしようたってそうはいかないんだからねっ」

 さくらが詰め寄ってくる。

 悪だくみならとっくにお前の弟がやってるよ。

「そうだいいこと思いついたわっ。次は何か賭けてやりましょうよ」

 さくらが声を上げた。お前は何も思いつくな。

「ほんならジュース賭けてやろか~」

「大丈夫ですか? 賭博罪にひっかかりませんか?」

 流星が心配そうに言う。

「何堅苦しいこと言ってるのよ、流星。そんなんだから彼女が出来ないのよ」

「姉さんだって彼氏いたことないじゃないか」

「そ、そんなのあんたには関係ないでしょ、黙ってなさいっ」

 顔を紅潮させるさくら。

 そんなさくらとまたも目が合う。すると、

「あたしは彼氏が出来ないんじゃなくて作らないだけなのよ、流星や良太たちとは全然違うんだからねっ」

 俺は変なとばっちりをくらった。

 さらに言うまでもないが勝負には俺が負けて、結果みんなにジュースをおごる羽目になった。

 恨むぞ流星。

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