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第15話

「なんですと!? 明後日の日曜日に文芸部で水族館に行くでござるかっ?」

 体育の時間が終わり、ジャージから制服に着替えながら織田が声を上げた。

「まあ、成り行きでな」

「いやはや真柴氏はもうすっかり文芸部に毒されてしまったでござるな」

「なんだそれ」

 さくらはともかく他の部員はわりといい奴らだぞ。

「勘違いするなよ、別に友達同士で遊びに行くってんじゃなくてこれも文芸部の活動の一環なんだからな」

「水族館と文芸部、全く結びつかないでござるが」

「それは天馬の姉の方に直接言ってくれ」

「天馬さくら氏でござるか……拙者あの手の者は苦手でござる」

 得意な奴なんていないから安心しろ。

「ねぇ、それって高橋さんも一緒に行くの?」

 更衣室で制服に着替え終わった高木さんが後ろから話しかけてくる。

 男子と違って女子はちゃんと更衣室が別にあるのだ。

「やあ高木氏。先程のマラソン一位でしたな。おめでとうでござる」

「うん、ありがとう織田くん」

 高木さんは運動も出来るので、さっきの体育の時間マラソン大会の練習で校庭を走っていた時、先頭を突っ走っていた。

「それでどうなの? 高橋さんも行くの?」

「ああ、もちろん」

 俺がそう答えると高木さんは俺の耳に顔を寄せ、

「高橋さんが部のみんなと休みの日に出かけることになったのって、もしかして真柴くんのおかげ?」

 そうささやいた。

「いや……どうなんだろう」

 正直微妙なところだ。

「ふ~ん……ねぇ私も一緒に行ったら迷惑かなぁ? 水族館」

「え、行きたいのか? 文芸部と一緒に?」

 あまりおすすめは出来ない。さくらがいるからな。

「高橋さんとお友達になれる機会だと思うのよね。どうかなぁ?」

「どうかなぁって言われてもな。俺は別にいいけど……」

「部長さんに訊いてみてくれない?」

「わかった。訊いとくよ」

 部長である土屋さんはまず間違いなく了承してくれるだろう。

 問題はさくらだ。

 あいつのことだからどうせ……。

 

「なんでどこの馬の骨ともわからない女を連れていかなきゃいけないのよっ!」

 放課後、部室で土屋さんにこのことを相談したところ、思っていた通りそれを耳に入れたさくらが声を荒らげた。

「すげえ言い方するな、お前」

「真柴くんの友達の女の子やろ、別にええんちゃうの?」

「全然よくないわっ。これは遊びじゃないのよ、文芸部としての活動なのっ。部外者はお断りよ!」

 手を勢いよく横に振るう。

 反対するとは思っていたが、

「そんなむきにならなくてもいいだろ」

「むきになんかなってないわよっ。良太が神聖な部活動を汚すような真似するからでしょっ」

 さくらは聞く耳を持たない。

「意味の分からないことを言うな。俺がいつ文芸部を汚したんだ?」

「今この瞬間よっ。文芸部の活動をデート目的に利用しようったってそうはいかないんだからね!」

「お前アホか? 高木さんはただのクラスメイトだよ」

「高木っていうのね、その女」

「だから、高木さんは高橋と友達になりたいらしいんだよ。ただそれだけだ」

 言うつもりなかったのに言ってしまった。

「友達に? それでなんで水族館までついてくるのよっ」

「まあまあ姉さん、落ち着いてよ。僕は高橋先輩に訊くのが一番だと思うよ」

「せやな~。水族館行きたい言うたんは美帆ちゃんやし、その子が美帆ちゃんと友達になりたいんならなおさらや」

 流星がさくらの肩を押さえ落ち着かせる。

 土屋さんも優しくなだめる。

「高橋はどう思う?」

 俺は高橋に振った。

 高橋は一言、

「……別にいい」

 と返す。

 別にいい、じゃわからん。

「美帆、正直に答えていいのよ。変な女と一緒になんて行きたくないわよね?」

 変な女はお前だ。

「……別に構わない」

 高橋は文庫本を閉じ誰の目を見るでもなく答えた。

「姉さん、高橋先輩もこう言っているんだし、いいんじゃないの?」

「そやで、美帆ちゃんに友達が出来るんはええことやん」

「うぅ……わ、わかったわよ。でも良太いい? もしその女と少しでもいちゃついたりしたら二人とも死刑だからね!」

 お前にそんな権限はない。

 さくらは言いたいだけ言うとカバンを持って部室を出ていった。

「あいつ帰ったのか?」

「そうみたいやね。せやったらうちらも帰ろか~」

「そうしましょう」

「……お疲れ」

 みんなはそれぞれカバンを手に椅子から立ち上がった。

 

 下駄箱を通り過ぎ高橋と二人校庭を歩いていると「真柴先輩、待ってくださいっ」と後方から流星の声が。

 俺が立ち止まると、

「……じゃあわたしは先帰るから」

 と高橋が校門を出ていく。

「おう。じゃあ日曜日な」

 俺は高橋の背中に声を飛ばした。

「はぁ、すみません、お待たせして、はぁ……」

 息を切らした流星が追いついてくる。

「全然いいけどさ……」

 少しダイエットした方がいいんじゃないか、と言いかけてやめた。大きなお世話だな。

 息を整えたあと、俺たちは歩き出した。

 校門を出たところで流星が言う。

「なんか姉さんがすみませんでした」

「あいつの言動には慣れてきたつもりだったけど今日は一段と激しかったな」

「はぁ……」

 流星たちのマンションは学校のすぐ裏手にあるので俺は、

「じゃあここでな」

 と別れようとすると言い出しにくそうに流星が口を開いた。

「あの……姉さんは高木先輩って人が真柴先輩と付き合っているんじゃないかと疑っていたみたいです。だからいつもより余計に反応したんだと思います」

「は? なんでそうなるんだ……っていうか、だとしてもあそこまで拒否する必要はないだろ」

「え……」

 流星は怪訝な表情を浮かべる。

「真柴先輩って……これまでに鈍いって言われたことないですか?」

 鈍い? どういう意味だ?

 俺は流星の言っていることがよくわからず、眉を寄せた。

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