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第12話

 放課後、文芸部の部室にて。

「頼むから夜中に電話かけてくるのはやめてくれ」

 俺はさくらに懇願した。

「なんでよ?」

 けろっとした顔で返すさくら。

 もともと遠視でくまが出来やすい体質の俺は、寝不足で目の下に大きなくまを作っていた。

「お前のせいで寝不足なんだよ。授業中も居眠りして先生に怒られるし、走れ雷撃丸もゾルーンワークスも見れないんだからな」

「何よそれ?」

「深夜アニメだよっ」

 お前は知らないだろうが俺は毎週楽しみにしているんだ。

「だって良太が小説を書く手伝いをしてくれるって言ったんでしょ」

「お前なぁ……」

 それは流星が言ったセリフであって俺は一言も発してはいない。

 こいつは自分の都合のいいように記憶を書き換えてやがる。

「まあまあ姉さん落ち着いて、真柴先輩も」

 ここで流星が俺とさくらの間に割って入ってきた。

「姉さん、さすがに夜中に電話するのはよくないと思うよ」

 珍しく姉であるさくらに物申す流星。

 いいぞ、もっと言ってやれ。

「真柴先輩のご家族にも迷惑だろうし」

 そうだそうだ。

「だから僕たちの家に真柴先輩を招いて、姉さんはそこで小説を書けばいいんじゃないかな。そうすれば真柴先輩にもすぐ感想を聞けるし」

 と流星は言う。

 え……何言い出すんだこいつ。

「ふーん、それもそうね。あたしもいちいち良太に電話するのは面倒だと思っていたのよね」

 さくらもその気になっている。

「おい、ちょっと待て。俺はそんなに暇じゃないんだ、部活外の時間までお前らにかまってられるか」

「そんなこと言わずに姉さんを手伝ってあげてくださいよ、真柴先輩」

「あんたは文芸部の部員なんだからあたしに協力する義務があるのよっ」

 俺の眼前にびしっと人差し指を突き出すさくら。

 あっぶね、目に入ったらどうしてくれるんだ。

「なんで俺だけなんだよ。それなら土屋さんも高橋も文芸部員だろ」

 死なばもろとも土屋さんたちには悪いが名前をあげさせてもらう。

 俺だけ天馬姉弟の毒牙にかかるのは理不尽だからな。

「何言ってるのよ、みどりは三年生でしょ。受験勉強の邪魔は出来ないわ」

 こういう時だけ常識人が顔を出す。

「じゃあ高橋はどうなんだ。俺と同じ二年だぞ」

「二年生だって受験勉強はするでしょ。アニメだの見て遊んでるのはあんたくらいよ」

「くっ……とにかくだ、俺は土屋さんたちも参加しないなら拒否権を行使する」

「あんたねぇ、わがまま言うんじゃないわよ良太」

 どっちがだ。

 すると、

「うちは別にええで。受験勉強にも息抜きは必要やし、さくらちゃんたちの家にも行ってみたかったしな~」

 土屋さんはのほほんとした顔で言う。

 そして最後の砦だった高橋までもが、

「……あたしも構わない」

 と言い出した。

 これでは俺の状況は何一つ変わらないではないか。

「じゃあ今日から小説が書き終わるまであたしたちの家でプチ合宿ねっ」

「そういうことなら、夕飯の材料は僕と真柴先輩で買い出ししてから帰りますよ」

「はあっ?」

「なんや楽しそうやな~」

「……プチ合宿」

 口々に好き勝手なことを言う部員たち。

 ……もう好きにしてくれ。


「……っていうわけだから今日は夕飯は友達ん家で食べるからいいよ。帰りも遅くなると思うけど心配しなくていいから」

『それなら母さんからその友達のご両親に電話した方がいいんじゃない?』

「いや、それは大丈夫だ。わけあって親とは一緒に暮らしてないらしいから」

『じゃあ高校生だけで夜遅くまでいるの? 大丈夫?』

「別に平気だってば。遅くても十時までには帰るから。よろしく」

『気を付けなさいね』

「はいよ」

 俺は電話を切った。

「誰なん? 今の相手」

「母さんです。夕飯いらないって伝えときました」

「そうなんや。仲ええんやね」

 夜六時を過ぎて真っ暗になった校庭を土屋さんと歩く。

「すいません、俺のせいで巻き込む形になってしまって……」

 正確には俺のせいとも言い切れないのだが一応謝ってしまう。これも日本人の性か。

「ええよ。さくらちゃんたちの家に行ってみたかったんはほんまやし、なんや夜に友達のうちに集まるって楽しそうやもん」

 カバンを後ろ手に持って体を揺らす土屋さん。

 友達か……。土屋さんは部員たちのことをそう思っているのか。

 俺の中ではさくらたちは文芸部の仲間だが、友達という感じではない。そもそも学年も違うしな。

「あ、真柴くん、ちょっとごめんやで」

 言うなり土屋さんは俺の前髪を触った。

「ほこりがついてたで、ほら」

「ああ、すいません」

 土屋さんはふぅっと息を吹きほこりを飛ばす。

「ちょっと良太! 何みどりといちゃついてんのよ!」

 後ろからさくらの声が聞こえた。校舎に反射して校庭に響く。

 振り返るとさくらが駆け足でこっちに向かってきていた。

「姉さん、声が大きいよっ」

 その後ろには流星と高橋もいる。

 いつも通り部室の鍵を職員室に返しに行こうとした流星に「たまにはじゃんけんで決めましょう」と提案したさくらは、言い出しっぺのくせに速攻で負けたのだが、負けず嫌いなさくらは「良太が後出しだったわっ」といちゃもんをつけ強引にやり直させ、結果負けた高橋が職員室に鍵を返しに行くことになったのだ。

「なんであたしたちを待ってないのよっ」

 俺たちに追いついたさくらが言う。

「一年の下駄箱は遠いから待ってるのが面倒だったんだよ。追いついたんだからいいだろ」

「ごめんな、さくらちゃん。真柴くん一人占めしてもうて」

「べっ、別にそんなこと言ってるんじゃないわよっ、ふんっ」

 さすが土屋さん。一発でさくらを黙らせた。

「ではこれから僕と真柴先輩で夕飯の材料を買って帰るので、みなさんは姉さんと先に家に向かっていてください」

 合流した流星が口を開く。

「なんやうちらだけ悪いな~」

「いいのよみどり。男どもはこういう時に利用しないとね」

「……ありがとう」

 女性陣が三者三様の反応をみせる。

「さっさとしなさいよね。寄り道なんかするんじゃないわよ、いいわねっ」

「待っとるで~」

「……お先に」

 さくらは俺を指差し、土屋さんは大きく手を振り、高橋は小さく手を上げて去っていった。

「姉さんもああ言っているので早速行きましょうか」

「おう」

 これ以上あいつの小言はごめんだからな。

 俺と流星は三人の後ろ姿を確認すると、近くのスーパーへと足を運ぶのだった。

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