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第11話

 校内新聞に小説を載せてもらうため、俺とさくらは新聞部の部室へと向かっていた。

 なぜ俺とさくらに決まったかというと厳正なるくじ引きの結果だ。

 流星が超能力を使いインチキをしていなければの話だが。

 それにしても、さくらと二人で廊下を歩いているだけで周りからの視線がすごい。

 まるで矢のように突き刺さってくる。

 学校一の美人であり変人であるさくらと一緒にいる以上、ある程度は予想していたのだが、まさかこれほどとはな。

 すれ違う生徒、すれ違う生徒、俺たちを奇異の目で見てくる。

 そこそこのストレスだ。

 さくら本人は周りの目などどこ吹く風といった感じで颯爽と歩いているが。

「ねぇ、ちゃんと聞いてるの? 良太」

 さくらが顔を寄せてくる。

「ん、悪い。聞いてなかった」

「あのねぇ……いい? あたしたちは最近まで同好会だったから部としては新参者なのよ。だから新聞部の奴らになめられたら負けなの、わかるでしょ?」

 何を言っているのかさっぱりわからない。

「負けって何に負けるんだよ」

 だがさくらは、

「強気にいくわよ。いいわね!」

 と俺の言葉はスルーして気合十分だ。

 新聞部は文化系の部活動の中では花形らしく、部室も職員室の隣に位置している。

 部員たちも優等生が多く在籍しているらしい。

 廊下を歩く生徒たちの視線を集めながら、新聞部の部室の前まで来ると、さくらがドアに手をかけた。

 そして思いっきりドアを開け放つ。

「あたしは文芸部の天馬さくらよ、新聞部の部長はどこのどいつ!」

 人のことを言えた義理ではないが、さくらのコミュニケーション能力は相当低い。

 さくらが放った一言で文芸部の部員たちは固まってしまっていた。

 おれはさくらをどかして前に出る。

「すいませんいきなり。部長さんはいらっしゃいますか?」

 俺を見て安心したのだろうか一人の男子生徒が立ち上がる。

「は、はい。ボクが部長だけど……」

 控えめに手を上げる新聞部の部長。

 なんともいい人そうな雰囲気を醸し出している。校章を見るに三年生のようだ。

「あのう、実は文芸部で小説を書くので新聞部さんの校内新聞に載せていただけたらなぁと思いまして……」

「ちょっと何へりくだってるのよっ。そんな下手に出たらなめられるじゃないのっ」

「お前は引っ込んでろ」

 前に出ようとするさくらを腕で押しのけ俺は話を続けた。

「ほんの少しでいいんですけど、どうでしょうか? 駄目ならすぐ帰ります」

「うん。それは別に構わないんだけどね……文芸部ってちゃんと活動してるの?」

 俺の後ろのさくらをちらちらと気にする新聞部の部長。

 さくらの言動を見たらそりゃあ心配になるよな。

 俺はさくらがまた余計なことを言い出す前に、

「大丈夫です。他の部員はしっかりしていますから」

 早口で答えた。

「そう。だったらいいよ。じゃあ来月号に載せるから、一週間後までに書いた小説を持ってきてくれるかな?」

 快く応じてくれた。

 やはり見た目通りのいい人だ。

 俺は文芸部の部長と部員の人たちに礼を言うと、さくらを引き連れ新聞部の部室をあとにした。

 旧部室棟へと戻る途中、

「お前いい加減にしろよな。相手は先輩だぞ、敬語くらい使え」

「ふん。あたしよりちょっと早く産まれたってだけじゃない」

「敬語ってのはそういうもんだろ」

 日本の年功序列の制度に異議でも唱えたいのか。

「さくら、お前って先生相手にはちゃんと敬語使ってるんだろうな」

「当り前じゃないの。あんたバカなの?」

 眉をひそませるさくら。

 ……バカはお前だ。


 見事新聞部の許可をもらった俺たちは、誰が校内新聞に載せる小説を書くかを話し合うことになった。

 いつもの通り、部長でも書記でもなんでもないさくらがみんなの前でホワイトボードに文字を書き込んでいく。

 そして書き終えると振り向き、ばんとホワイトボードを叩いた。

「さあ、問題は誰が小説を書くのかよ」

 ホワイトボードには小説を書くのは誰? と書かれている。

「ここはやっぱり姉さんが書くのがいいんじゃないかなぁ」

 と最初に口を開いたのは流星だ。

 こいつは常に姉であるさくらの肩を持つ。

「え~あたし? あたしは別にいいわよ」

 まんざらでもなさそうな顔でやんわりと断るさくら。

「それより美帆なんてどうかしら? いつも本を読んでるしぴったりだと思うのよね」

「あ~それもいいかもしれないね、さすが姉さん」

 と流星が同調する。

 お前に意思はないのか?

 そこへ話を振られたさくらが文庫本から目線を上げた。

 そしてゆっくりとさくらを見る。

「どう? 美帆。書いてみない?」

「……興味ない」

 相変わらずの無関心ぶりをここでもみせる。

「もう、美帆も文芸部員なんだからちゃんと文芸部員らしいことをしないと駄目なのよ。わかってるの?」

 さくらはそう言うが、最初から今の今まで一番文芸部員らしいことをやっているのは高橋だ。

 俺たちがどうでもいい話をしている時でも高橋は常に文庫本を手放さないのだから。

「みどりはどう? 書いてみたくない?」

「うちは作文を書くのも苦手やからなぁ……小説なんて書ける気せえへんよ」

 校内新聞に小説を載せてもらおうと言い出した張本人である土屋さんは手をひらひらとさせて言う。

「さくらちゃんでええんと違う」

「そうだよ姉さん。そうしなよ。僕も手伝えることがあったら手伝うからさ」

 土屋さんと流星が口を揃える。

 ここはあともう一押しでさくらに面倒事を押し付けることが出来るぞ。

「やっぱりさくらが書けばいいんじゃないか。俺もそれが一番いいと思う。お前が書いた小説ならちょっと読んでみたい気もするし」

 サイコパスが書いた小説ほど面白いと聞いたことがあるからな。

「な、何よ、良太まで。ま、まあみんながそこまで言うのならあたしが書いてやってもいいけど~」

 気恥ずかし気に口をとがらせるさくら。

 こいつにしては珍しい反応だ。

「その代わりちゃんと手伝いなさいよね、良太」

 なぜか俺だけピンポイントで名指しされた。

 話を聞いてなかったのか?

 手伝うって言ったのは俺ではなくて流星だぞ。

 流星を見やると俺と目が合うなりにこりと微笑む。

 そして声は出さずに口だけ動かしてみせた。

楽しそうに「お・ね・が・い・し・ま・す」と。


「真柴氏、大丈夫でござるか?」

「……いや、正直大丈夫ではない。すごく眠い」

 俺は、寝ぼけまなこで昼飯のカレーパンを烏龍茶で胃に流し込みながら答える。

 昼休み、俺は織田と机を並べて昼飯を食べていた。

 とそこへ、

「ねぇ真柴くん、ちょっといいかな……って真柴くん目の下のくまがすごいよっ。どうしたの?」

 高木さんが俺の机に両手を置き、俺と目線を合わせてくる。小動物みたいだ。

「どうやら天馬さくら氏が寝させてくれないようでござる」

「えっ!? ……天馬さんが?」

 誤解されるようなことを言うな織田。

「どういうこと? 真柴くん」

 俺の顔を覗き込んでくる高木さん。

「いや、実は……」

 俺は文芸部が新聞部が発行する校内新聞に小説を載せること、それを書くのがさくらだということ、さらにその手伝いと称して夜中までさくらが書いた小説の感想を求める電話が鳴り止まなかったことを話した。

「そうなんだ……それは大変だね」

「ああ、校内新聞に載せる小説なんて適当でいいのに妙なところで真面目なんだよ」

 と言うと、俺の言葉に引っ掛かったのか高木さんが身を乗り出す。

「適当は駄目だよ真柴くん。新聞部の人たちだって真面目に校内新聞を作っているんだから」

「あ、ああ。悪い」

 相談する相手を間違えた。高木さんも充分真面目な生徒だった。

 頬を可愛らしく膨らませている高木さんに俺が訊く。

「それで、何か俺に用があったんじゃないの?」

「あ、そうなの。えっとね……文芸部に高橋美帆さんいるわよね。真柴くんて高橋さんと仲いい?」

「え、なんで?」

 質問の趣旨がよくわからないんだが。

「高橋さんね、どうやらクラスで浮いているらしいの」

 と高木さんが切り出す。

 まあ、部室にいるのと同じ感じでクラスにいたらそうなるだろうな。

「私クラス委員でしょ、鈴木先生に高橋さんと友達になってくれないかって頼まれちゃって……」

 鈴木先生というのは高橋のクラスの担任だったか。

「でも友達ってそういうなり方ってちょっと違うんじゃないかなって思って……」

「そうだなぁ」

 同情で友達になってもらったと知ったら高橋だって嫌だろう。

「だから仲がいい友達が一人でもいれば私も安心っていうか、なんて言えばいいんだろう、う~ん……」

「いや、なんとなく言いたいことはわかるよ」

「ありがと。それでもう一回訊くけど真柴くんて高橋さんと仲がいい?」

 答えに困る質問だ。

 連絡先は知ってはいるが同じ部活だからという理由だし、あいつの秘密も知ってはいるが仲がいいかと訊かれると微妙だ。

 見ると高木さんは今にも捨てられそうな子犬のような目で俺をみつめている。

 とりあえず安心させておくか。

「仲がいいかは向こうに訊いてみないとなんとも言えないけど、一応連絡先は知っているし話もしないことはないよ」

「本当? あ~よかった、真柴くんがいてくれて」

 高木さんはほっと胸をなでおろす。

「じゃあ私行くね。あっでも機会があったら高橋さんのこと紹介してね。先生に言われたからじゃなくて私も高橋さんのこと知りたいから」

 そう言うと高木さんは女子の輪の中に戻っていった。

「真柴氏、いろいろと大変でござるな。文芸部に入って失敗だったのではござらんか?」

「やめてくれ、考えないようにしてるんだから」

 俺は高木さんに文芸部員と最後まで付き合うと言ってしまった手前、いまさら文芸部は辞められないんだ。

 それに部員たちの秘密を知ってしまった今となっては、なおさら辞めることは出来ない。

「真柴氏、今日のゾルーンワークス見れそうでござるか?」

 俺たちの中で今話題沸騰中の深夜アニメ、ゾルーンワークス。戦闘シーンの作画がすばらしいのだが。

「いや、今日こそは早く寝る」

 昨晩のさくらの電話攻撃のせいで寝不足だからな、ゾルーンワークスはDVDレコーダー行き決定だな。

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