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【三章終了】魔道具屋になりたかったスパイの報告  作者: 春井涼(中口徹)
第二章『霊眼』

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第三話-4

 ソファを勧められて冬雪と幽灘が座ると、グレゴワールも対面に腰かけ、シルヴィが紅茶を出した。幽灘は紅茶に砂糖を入れて混ぜ、冬雪はそのまま一口含んで舌と唇を湿らせる。


 他国や共和国西部ではまた少し作法が異なるが、共和国東部では、話に入る前に出された飲み物に、来客が一度口を付けるのが正式な礼儀とされているのだ。訪問者が信頼の意思を示す、という意味があるらしい。大陸間戦争の前、揺れる情勢の中で会談時の毒殺が相次いだことから生まれた。


 礼儀云々を抜きにしても、炎天下を歩いた後では喉が渇くので、水分補給ができたのは素直にありがたかった。


 それが済んでティーカップを置くと、冬雪の方から話を始めた。これも来訪に関する礼儀作法の一つである。


「改めまして自己紹介をいたしますと、ボクは冬雪夏生、幽灘の保護者で自営業の魔道具屋です。本日はお招きいただき、ありがとうございます」


 軽く頭を下げて冬雪が挨拶を済ませると、グレゴワールの方もそれに応えた。


「私はグレゴワール・スチュワート、首都日報ギルキリアの本社で政治部の部長です。こちらは妻のシルヴィ、私と同じく首都日報ギルキリアの本社勤めで、社会部の編集長です」


 ここまでが形式上のやりとりだ。改めてこの夫婦の地位を聴くと、なかなか上の方にいる。


「先日は娘のアネッタがお世話になったようで──」


 グレゴワールが本題に入ろうとしたところで、客間の扉が勢いよく開き、小さな影が二つ、室内に飛び込んできた。アントニーとアネッタだ。紅茶から口を離したばかりの幽灘が、驚いて肩を跳ねさせるのが、冬雪の視界の端に映った。


「あっ、本当にユナが来てる!」


「ユナ姉遊ぼう!」


「こら、二人とも! まずはお客さんに挨拶が先だろう!」


 元気がいいなあ、と冬雪が感心する目の前で、グレゴワールが慌てて立ち上がり、子どもを叱りつける。実際、冬雪はこれ以上の感想は持たず、不快感など微塵も覚えていなかった。


「別に構いませんよ、むしろ尾を引いていないようで何よりです」


 まあ礼儀の面から言えば正しいとは言えないだろうが、冬雪は必要に応じて使い分けているだけであり、必ずしも正しい礼儀作法を求めるわけではない。むしろ本来の気質としては気楽さを求めるため、無礼でなければ構わない、というスタイルでいるのだ。


 それはそれとして、親としてはそういうわけにもいかないんだろうな、とも思う。冬雪も時折それとなく幽灘に礼儀作法を教えてはいるが、もう少ししっかり教えるべきだろうか。


 冬雪は親歴と子供の年齢が大きく離れているので、その辺りの加減がよく分からない。そんな中実家も頼るわけにもいかず、その割にはこれまでよく健闘してきたものだ、と零火や岩倉には評されているのだが。


 とはいえ、ならそれでいいか、と納得できるような問題でもない。親が親として落第生でも、子供の成長について言い訳するわけにはいかないのだ。


 慌ただしく冬雪に挨拶した兄妹に幽灘が連れ去られてしまうと、グレゴワールが頭を抱えて唸るように言った。


「礼儀も何もなくて申し訳ない、後でしっかりと言っておきますので」


「元気なのは良いことですよ。魔獣の件で何か健康に影響が出ていないか心配しましたが、そういうこともないようなので安心しました」


「改めて、先日はアネッタがお世話になりました。勝手にお宅の魔道具を起動させてしまったようで、それに関しては本当に申し訳なく」


「いえ、その後も無事で喜ばしい限りです。むしろこちらこそ、危険な場所に簡単に送られるような仕掛けを、適切に管理できておりませんで。娘さんを危険に晒しました。申し訳ありませんでした」


 互いに謝罪合戦になりそうだったので自然にそれ以上を控えたが、やはり魔術師としては自分の落ち度の方が大きかったのではないか、と些か真面目に考える冬雪だった。

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