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第二話-7

『鵺』の容貌について──。


 複数の魔獣を()()いだような性質を持つ『鵺』という魔獣は、その姿かたちも様々な魔獣の継ぎ接ぎであった。


 炎犬、茶熊、白土竜(もぐら)、水猪、その他各地で見つかっている凶暴な魔獣、その特徴が色濃く表れた歪な骨格と魔法能力、通説の違う行動原理。どう見ても人工の生物であり、生物兵器と言って差し支えない生態だ。否、実際にそういう目的で作られた可能性が高い。


 あらゆる魔獣の遺伝子を混合して作られた、生命倫理の欠片もない醜悪な駄作の博覧会──。『鵺』の放たれたアルレーヌとは、まさにそう表現されるべき惨状を見せていた。


「せめて安らかに眠るがいい。終わらせてやるのも一つの慈悲だ」


 ついに崩れ始めたバルコニーで、冬雪は静かに呟いた。そのまま身を翻し、跳躍。攻撃の手が届かず未だ健在な屋敷の屋根に飛び乗り、大きく息を吸い込むと、常になく声を張った。


「次の一手で全て終わらせる。微精霊と準精霊は正面バルコニー、本精霊は砲門両翼に参集しろ。陣形、δ(デルタ)!」


 号令と同時、九五の光が屋敷に集まった。冬雪の契約精霊たちである。それぞれが配置に就き、それまでより強い光を放つ。冬雪が大量のマナを供給し始めたのだ。


「まったく、屋敷で総力戦だなんて、一年前のあれが最初で最後だと思っていたのに……」


 エネルギーを探知し、魔獣が最も多いと考えられる地点を狙って、小規模な魔力風を引き起こす。


 魔法とも言えないような魔力の無駄遣いだ。これはただ魔力を待機中に放出するだけの現象であり、エネルギー効率が悪い上に周囲に与える破壊力が大きいため、魔術師にはまず歓迎されない。


 しかし、『鵺』は魔力残渣に集まる習性がある。魔力残渣は下手な魔術魔法や洗練されていない魔道具を使用した際に一瞬だけ大気中に放出される微細な魔力だ。魔道具が誤作動したり暴発したりする可能性のある危険な現象である。


 魔力風は、魔力残渣よりも長い時間大気中に魔力が流れ、魔力残渣より多くの魔力が残る。『鵺』がこれに惹かれないはずがない。岩倉によると、特別情報庁の資料では『鵺』のこの習性を、「正の魔力走性」と呼ぶことにしたようだ。


「正の魔力走性」によって、『鵺』が魔力風の発生した地点に殺到する。木々の陰から、やや離れた岩の裏から、『鵺』が現れる。


「土竜もいたのかよ……」


 冬雪がぼやいたとおり、土の中からも『鵺』が現れる。それらが魔力風の発生地点に集まり、雲ができるのではないかと思うほど密集すると、冬雪は精霊たちの正面に一つの巨大な魔法陣を出現させた。


 膨大な魔力を使用して構成されたそれは、中央の円環を通過する特定エネルギーを倍加する魔法陣だ。既に学会で知られているものでは、「中央の円環を通過する物体の速度を倍加する魔法陣」が存在するが、これはその魔法陣を参考に、冬雪が独自に加筆修正したものである。


「熱を四割奪う代わり、音、電気、化学、魔法力を倍加する魔法陣だ。遠慮なくやれ」


 これまでの戦闘や屋敷の防衛で木々が薙ぎ払われ、幸か不幸か開けた空間に、『鵺』が集まっている。墓穴を掘る、などという言葉が存在するが、彼らは自分たちの死に場を自ら開拓したのだ。


「撃て!」


 冬雪の号令により、精霊たちが各々に配分されたマナを使用し、無数の氷塊を射出する。さすがに防御結界は使えない『鵺』たちに、その圧倒的な質量攻撃の対処法は存在しなかった。

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