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第二話-3

『撃鉄』の眉が、僅かに跳ね上がったのを冬雪は見逃さなかった。


「あるんですね、魔獣の情報が」


「ない、と言ったらどうしますか」


 いちいち面倒なおっさんだ、と冬雪は思ったが、こちらにもやりようはあるのだ。


「銃の開発費を二倍、納入費は三倍の値に釣り上げて請求します」


 そんなにいらないけどね、と内心で呟きながら、顔には出さず吹っ掛ける。まあ金はあっても困るものではないから良いだろう。


 銃の売却費は九割が『幻影』の資金になるが、現時点でも資金はそれなりに優先して回されているので、急いで増やす必要があるわけでもない。売り上げとしては最初に提示した額で充分だ。


 そんなことは、『撃鉄』ならば理解しているだろう。それと知った上で冬雪は吹っ掛けているのだ、「金ではなく、情報を寄越せ」と。


「あまり失望させないでくださいよ」


「なんですと?」


 あまり上司に向かって使う言葉ではないが、問題が問題なのだ。多少(・・)脅してでも情報は欲しい。


「ボクは特別情報庁の情報収集能力を高く買っているのです。それが理由で、今日まで共和国の国防を手伝っているのですからね」


 火花が散るような睨み合いが、両者の間に落ちた。要求に応えられない組織ならば裏切ってもいい、と暗に言っているのだ。今のところその予定はないが、今後の情勢次第では分からない。目的さえ果たせれば、冬雪としては特別情報庁に拘る理由はないのである。


 時間にして数秒、しかしその空気に直に触れた者があれば、その数秒でさえ永遠に近く感じたかもしれない。


「若いながら、肝の座った男ですな」


 折れたのは『撃鉄』だった。


「おい、『撃鉄』……」


 と『薬莢』が咎めようとするのを片手を挙げて制止し、『撃鉄』が話し始める。


「魔獣について、どこまで知っていますか」


「五〇時間前までには、アルレーヌ地域に現れていた──それは確実です。そしてその個体数は、最低二体以上、身体は複数の魔獣を組み合わせて作られたものだった、と」


「ふむ、概ね間違いないでしょうな。『薬莢』殿、銃にいくら出せる?」


「開発費に八五〇万メリア、銃は一丁九〇万メリアで一〇〇……いや、二〇〇丁買おう」


 金払いのいいことだ、と冬雪は感心した。




『撃鉄』『薬莢』と交わした取引書類の控えを『幻想郷』に持ち帰り、ルイが冬雪から書類を受け取ってトパロウルに渡した。


「しかし、特別情報庁はどうしてわざわざ粗悪品の拳銃なんか欲しがったんでしょうか? 僕も試射させてもらいましたけど、師匠ならもっと高性能な拳銃作れるのに」


「自分たちの武力にするわけじゃないからな」


 他のスパイチームの任務に差し障るので詳細は控えるが、冬雪はそう説明した。特別情報庁の工作員たちに供与するには、当然ながら銃の数は一〇〇や二〇〇では足りない。これは他国の情報機関に対し、共和国の技術力を過小評価させるための小道具なのだ。


 実際に共和国の工作員に供与する武器の開発を行うことがあれは、銃ではなく、別の小道具を依頼されるだろう。その際は、あえて粗悪な質に落とした武器ではなく、はるかに精密な道具を開発する。


 取引が成立した以上は納める商品を生産せねばならないが、そのためにはまず、生産拠点の安全を確保しなければならなかった。


 冬雪が生産拠点とするのはアルレーヌ──屋敷や森の安全を、一刻も早く確保せねばならないのだ。

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