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第一話-5

 そもそも双頭龍種とは何なのか──。


 これは共和国内では戦後一二〇年間で三例程しか確認されていないが、龍の結合双生児である、というのが生物学学会における有力な見方だ。


 結合双生児とは、一卵性双生児として生まれるはずだった個体が身体の一部を結合させ、身体の一部の器官を共有する双子である。人間でも時折発生するが、爬虫類であり卵生の龍種には、滅多に見られない。


 ところが、卵生の動物であっても、一卵性双生児は発生する確率が存在する。爬虫類には珍しいが、龍種でも発生するのだ。そしてさらに稀有な事例として、これが結合双生児として生まれてくる場合がある。これが、双頭龍種である。


 双頭龍種はこれまでに記録された全ての個体が胸部合体型結合双生児で、胸部より下の臓器や身体をすべて共有している。しかし頭部は二つあり、従って個体としての意思は二体分存在する。


 これで何が起きるかというと、二体分の意思がそれぞれ反する場合、共有する身体が無秩序に暴れるのだ。そのため、双頭龍種が発見されると陸軍から討伐部隊が派遣され、一個小隊をもって殺処分、死骸は研究機関に収容される。


 ここで一つ、歴史の話をしよう。第一世界空間の国家、ドイツがかつてナチスに統治されていた頃、ヒトの結合双生児に異常に興味を持った人物がいた。


 彼は一卵性双生児を集め、人工的に結合双生児を生み出そうという非人道的な研究を行った。冬雪が今回双頭の龍について新しい報告を聞いたとき、思い浮かんだのがこの研究だ。


(つまり、人工の双頭龍種がスヴィール高原に放たれた可能性がある……)


 生命倫理的には、無論問題しかない事件である。


 冬雪はもう一度分身を作り、情報部の詰所に投げ込んだ。


「ウォレス准将、捜索に向かった中隊の動きを聞かせてくれないか」


 一度見たからには驚かない准将は、見事にとぼけてみせた。


「中隊の動き、などと言われても」


「捜索中に龍を発見したそうだが」


「……」


「片方の首に、繋ぎ目のようなものがあったそうだな」


「……」


 やはり意図的に黙っていたようだ。


「だから特別情報庁に情報を上げたくないんだ、情報部は」


「言っている場合か、友軍の命がかかっているんだろうが」


 柄にもなく叱責したが、本来特別情報庁と陸軍情報部は別個の組織である。「さっさと情報を上げろ」というのであれば、国家機密情報取扱法に則った序列があるため妥当性は認められる。実際冬雪も、陸軍情報部の連隊長に向かって言ったことがある。


 しかしそうではない部隊運用の問題は、あくまで軍内部での問題、冬雪が言及するのは越権行為になってしまうのだ。


 とはいえ何事にも例外はあるし、今回は冬雪の任務にも大きく影響があるのだ。仮に軍上層部で問題視されても、「やむをえぬ」として、最終的に特別情報庁の咎はないであろう。


「ついさっき、中隊長から新たな報告があった」


 観念してウォレスが話し始めた。


「中隊が、再び龍と接触したそうだ」


 それをさっさと話せ、と冬雪は怒鳴りつけたくなったが、大きく息を吐き出すことで代わりとし、なんとか自重した。

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