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第一話-3

 スヴィール市は冬雪の住むギルキリア市と同じく、フォーマンダ州の一都市だ。とはいえその位置は非常に離れている。東西に長いフォーマンダ州の東端にギルキリア市が位置するのに対し、スヴィール市はどちらかというと南西部に位置しており、都市間での時差は四時間になる。


 地理的にはギルキリアより低緯度ではあるものの、スヴィール高原の上に広がる街は海抜高度が高いため、気温はギルキリアと比べて高くない。むしろ空気が乾燥しているため、季節風で湿度の高い夏を迎えるギルキリアよりも、スヴィール高原の夏の方が快適とも言えるだろう。


 高原から少し南に降りれば赤道の近い海岸があるため、その地域は酷い地獄の夏を味わうことになるのだが。


「任務が高原で片付くといいなあ……」


 転移魔術でスヴィール市に降り立って早々、本気で祈る冬雪である。殺しの任務というだけで陰鬱な気分になるのだ、大気にまで嫌がらせを受けていてはたまらない。


 気を取り直してアイシュヴァイツ要塞に向かう。スヴィール市は領海越しに先進国家連邦が比較的近いため、アイシュヴァイツ要塞には陸軍情報部が配置されている。既に要塞内に背任者がいるなら毒されている可能性もあるが、何も手掛かりがないよりはいい。


 ひとまず話を聴いてみることにした。


「アイシュヴァイツ要塞駐留陸軍の、情報部詰め所はここか。話を聴かせてもらえないか」


 冬雪がどこからともなく出現すると、軍人たちは驚愕し、次いで困惑し、それから各々臨戦態勢に移った。それもそのはず、ここには彼の本体は来ておらず、いつかギルキリア市内での任務で行ったように、分身を投げ込んでおいたのだ。


 しかもそれは分身と呼んでいいのか分からない風貌で、そもそも仮面とローブだけが、飛行魔術でふわふわと浮いているだけなのである。いずれも銀魔力で作られた即席のもので、仮面の内側に映像通信を繋ぐことで会話を可能にしているだけに過ぎない。


 何かがいるのは分かるが、これを人と呼んでいいものか──軍人たちの困惑も致し方なしだ。


 わざわざこのような面倒な手段を取ったのにも無論理由はある。共和国の陸軍情報部は、残念ながら特別情報庁に並ぶほどの情報戦略能力は持っていない。そのため特別情報庁の者は、正規軍情報部の人間と会う際には顔を隠すよう指示されていることが多いのだ。


 そしてただの映像通信を詰め所に届けては、特別情報庁にそのような技術力があることが軍に知られてしまう。そこで利用するのが分身になるあたり、冬雪も自分の能力がいかに高いものか、あまり正しく理解していないのだ。


 先日同僚の岩倉(いわくら)が評した言葉を引用するのであれば、「彼は間抜けな天才」である。彼女曰く、一応これでも褒めてはいるのだ。


「そう警戒しないでくれ。ボクは特別情報庁から派遣された者だ。行方不明になった陸軍の分隊について、知っていることを教えてもらいたい」


 研究施設内に裏切者がいるか、などと訊けるはずもないので、冬雪は表向き派遣されてきた理由を告げる。研究施設の背任者についてはある程度トパロウルから聴いているので、わざわざここで聴くこともないのだ。


「上からは、双頭の龍を調べに向かって帰って来なくなったと聞いているが」


「……ああ、その通りだ」


 警戒する兵士たちの中から、一人の士官が冬雪の(分身の)前に進み出た。襟元のバッジから、その階級は准将と知れた。


「アイシュヴァイツ要塞駐留情報部の指揮官、ウォレス准将だ」


 第七連隊のフレイザー大佐よりは話せそうだ、と冬雪は内心で評価した。

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