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【新章開幕】魔道具屋になりたかったスパイの報告  作者: 春井涼(中口徹)
【if】冬雪夏生と平井零火をあの部屋に閉じ込めてみた。
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【if】冬雪夏生と平井零火をあの部屋に閉じ込めてみた。-8

 姿勢が定まると、二人は同時に全く違うことを呟いた。勢いよく湯が溢れ、排水溝に落ちていく。


「こうやって一緒にお風呂に入るのって、ちょっと恥ずかしいですね」


「遅いんだよその感想が出てくるのが。なぜドアを開けた時点で出てこなかったんだ」


「不思議ですよね。でも先輩と一緒だと、なんだか安心します」


「話がどこに飛んだんだ……」


 それからしばらくは、二人とも静かに湯船に浸かっていた。時間にして五分程度経過しただろうか、やがて零火が冬雪の胸に耳を触れさせるように姿勢を変えると、不満そうに冬雪を見上げた。


「先輩、全然ドキドキしてない」


「……は?」


 姿勢を変えたのは、冬雪の心音を聴くためだったらしい。彼としては、零火が浴室のドアを開けた時点で、既に驚きの段階は過ぎ去っているのだ。脈拍はとうに正常域に戻っている。今更それを指摘されたところでどうしようもない。


 だがそんな説明では、零火は納得しなかったようだ。


「さっきから私ばっかりドキドキしてるのに……ずるい」


「ずるいとは」


「こうしたら、先輩もドキドキする?」


 顔を赤くしながらも、零火が冬雪の腕を自分に巻き付けるように持ち上げる。しかしそれで冬雪の脈拍が分からないと分かると、彼女はさらに不満顔になった。


「なんでこれでも変わらないんですか」


 と言うが、冬雪としてはそんなことを言われても困る。


 それはそれとして、言っておかねばならないことはあった。


「さては無理をしているだろう」


「してないです」


「湯が熱いと言っていたか? 君が入ることも考えて、ややぬるめの温度に設定しておいたはずだが、ペンダントもないとまだ熱かったか」


「違います」


 駄々を捏ねているようにしか聞こえない反論は無視して、冬雪は断定した。


また(・・)のぼせたか……」


「のぼせてないです」


「普段白い肌がうっすら赤くなっているじゃないか。言い逃れは難しいぞ。屋敷に泊まりに来たときも、たまにふらふら出てくるくせに」


「のぼせてないです!」


 とはいえ肌が赤くなっているのも体温が上がっているのも事実なので、冬雪としては聞き入れるわけにはいかなかった。


「上がるぞ」


「やだ」


「だめだ。勝手に連れていく」


 冬雪は零火の華奢な身体を横抱きにして持ち上げると、軽く全身に湯を浴びせ、ドアを開けて浴室を出た。両手は塞がっているが、そこは魔術師の彼である。第三、第四の腕が現れ、淀みなくそれらの作業を済ませた。


 身体や髪はまだ濡れているが、それも魔術魔法を使用すればタオル要らずである。余分な水を纏めあげ、集まった水は溢れないよう注意しながら排水口に流し込んだ。バスローブも飛行魔術を細かく制御すれば、手を使わず着ることができる。


「無駄に器用……」


「多才だと言ってくれ。曲がりなりにも、魔法で生計を立てているからな」


「ドライヤーしてくれるかと思ったのに」


「ここ一年半はドライヤーは使ってないな……魔術の方が楽だから」


「けち」


「なぜそうなる」


 言い合いながらも零火にバスローブを着せてベッドに運び、机の上に置かれていたペンダントを作動させ着け直した。次第に冷気が溢れ始め、彼女の体温が下がり始める。


 冷えすぎないよう寝かせた零火に布団をかけると、冬雪は寝室を出た。


「あんなこと言ってるけど、先輩は今でも優しいです」


 そう零火が零したのは、聞こえなかったふりをして。

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