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【新章開幕】魔道具屋になりたかったスパイの報告  作者: 春井涼(中口徹)
【if】冬雪夏生と平井零火をあの部屋に閉じ込めてみた。
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【if】冬雪夏生と平井零火をあの部屋に閉じ込めてみた。-2

 どうやらホテルか何かの一室に近い構造の部屋らしい、ということが、調査の結果判明した。その割に、壁の向こうに他の部屋は見当たらない。どうやら地下室のようだ。


 冬雪たちが始めに目を覚ました部屋は寝室だったようで、ダブルベッドとテーブル、時計が置かれており、調査終了時点で二時頃を指していた。午前か午後かは分からない。


 隣の部屋はテーブルと椅子、水道場、戸棚が置かれており、戸棚の中には数日は生き延びられるであろう量の水と食料が入っていた。


 テーブルの部屋からは二手に別れており、片方に進むと脱衣所がある。乾燥機付き洗濯機には洗濯ネットが四枚(同じ色が二枚ずつ)とバスローブが二着、ドライヤーが一台置いてあり、脱衣所の先にはトイレと浴室がそれぞれ別にあった。


 テーブルの部屋から別れたもう一方に進むと、玄関らしき空間がある。冬雪と零火の靴が置かれており、下駄箱には靴べらが置かれているだけで、他には何もない。一応ドアノブは回してみたが、鍵がかかっており、軟禁されたようだ、というらしきことは理解できた。


「つまり……」


 ダブルベッドが広々としているのをいいことに、大の字になって転がった冬雪が言った。


「この部屋の持ち主は、ボクたちに休暇をくれたわけだ」


「そうはなりませんよね!?」


 テーブルの上にあった一枚の紙をひったくるようにして掴み、零火が言う。


「ここに書いてあることが事実だとしたら、私たちは、その……」


「火遊びをしないと出られないわけだ。いやあ、困った困った。こいつは大変なことだなあ」


 全く困ったようには見えない冬雪の態度に呆れ、零火は紙に書かれた文章を黙読した。さすがに声に出すのは羞恥心が勝る。


「ここはセックスをしないと出られない部屋です。あなた方は監視されており、鍵は遠隔で管理されています。誤魔化しは一切通用しません」


「随分とストレートに書くものだねーぇ、それ」


「ストレートすぎますよ! しかも先輩、見つけた盗聴器っぽいもの全部壊しちゃうし」


 調査の過程で、電源タップの他にも怪しいものは大量に発見されている。どんな行為を想定したのか、盗聴器らしきものは寝室以外にも、テーブルの部屋や脱衣所、浴室、トイレに廊下に玄関に至るまで、各所に執拗なほど設置されていた。


 二〇にも上るそれらの全てを、冬雪は時に力尽くで取り外し一切の躊躇なく分解すると、ひとつ残らず踏み潰したのだ。通気口の中にまで腕を突っ込み、取り出せたレコーダーを叩き割るほどの徹底ぶりである。


「これじゃあ監視手段がなくなって、出るに出られないんじゃ……」


「落ち着け、ここは日本だぞ。抜け道なんていくらでもある。共和国だとしても、特に変わらんがな」


「抜け道って……あ」


「気付いたか? いつでも出られるだろう、こんな場所」


「そういえば私たちの力なら、どうにでもなりますね」


 ことここに至り、零火はようやく自分が何なのかを思い出したようだった。彼女は雪女、冬雪は魔術師その他、とにかく二人とも超自然力を操る能力を持つ。ただの壁や扉など敵ではない。


「共和国なら結界が使われている可能性も一応考慮したかもしれないがな。日本ならその心配もない」


「陰陽道とかの結界で出られないかもしれませんよ」


「ないだろう、そんなもの」


「確かにないみたいですけど」


 零火は紙を置くと、ベッドの端に腰掛けた。


「つまりこの状況は、ボクたちがいつでも無条件に部屋から出られる身でありながら、そこから出られないことにして(・・・・・・・・・・)この部屋でのんびり過ごす、という大義名分を与えてくれているわけだ。ありがたい話じゃないか、しばらく厄介になるとしよう」


 絶対にそういうことではないだろう、と言いたいところだったが、零火は何も言わず、ただ呆れたように笑った。


 好きな男に女として見られていないような気がして、それだけはやや釈然としなかったが。

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