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第七話-8

 弟子となったからには師匠に教えを受けるものだが、これが地獄の始まりだった。


 ひとまず座学から、ということで、冬雪は留守番中のトパロウルの執務室に備え付けられた黒板を使い、転生前、魔力使用者になった日にラザムから仕込まれた魔法の基礎知識を、ウェンディやルイにも徹底的に叩き込んだ。


 そして現在の彼は魔道具屋である。翌日以降も講義は行われ、魔道具に関する知識も叩き込まれたが、特にややこしいのは、魔導体の知識だった。


「金属は電気や熱を伝える性質、電気・熱伝導性を持つ物質だ。これは常識だな。だがそれと同じく、金属は魔法力の伝導性もある。特にその性質が強いのは金、銀、銅の三種類だ。見覚えがあるだろう、こいつらは電気・熱伝導性の最も大きい三種類の金属だ。魔法力伝導性の大きい順に並べ替えてみようか。上から、銀、金、銅となる。一般的に、魔導体として使われるのはこの中だと銅線だ。安価だからな。だがまあ、魔法力伝導性は銀や金に比べれば大したことはない。魔法力抵抗が金の二倍だからな。銀に比べれば五倍にもなる。だから、長距離の魔法力伝導を行う際には、魔法力を強化する魔道具を使うことが多い。銀線は安くないからな。ちなみにだが、銀を超える魔法力伝導性を示す金属が一つある。それが白金(プラチナ)だ。魔法力抵抗の強さは銀の約三割、銅とは比べるべくもない。だが言うまでもなく白金はそもそも高価な装飾に使われる金属だし、当然価格も比較にならんほどはね上がる。使えるのは相当高価な魔道具だけだ。ボクでさえもおいそれとは使う気になれん。貴金属だから、ただ使うだけで盗難のリスクも出るしな」


 これだけの情報量を一度に流し込まれるが、これはまだ入口に過ぎない。これに加え、


「それと、魔法力伝導性は相乗効果というものがある。いわゆる合金というやつだ。近年魔道具に組み込まれるようになった合金には、白金の魔法力伝導性を超えるものがある。物質量比で白金を七、銀を二、金を一の割合で融解させ、固めたものだ。魔法力抵抗の強さは白金単体の半分。即発性が重視される魔道具には重要になる。こいつの名前は聞いたことがあるんじゃないか、超魔導銀(ミスリル)というやつだ。稀に鉱脈が発見されるが、産出量はダイヤモンドよりも少ない。天然の超魔導銀はかなり希少だ。昔はかなり大量に採掘された記録もあるらしいけどね、その頃に採掘された超魔導銀は、今頃多分、地下迷宮(ダンジョン)にでも使われているだろうね。現在流通する超魔導銀は、ほぼ全部人工的に作られた合金だと思っていい。それとこれは未だに正体が分かっていないらしいが、赤金(オリハルコン)も魔法力伝導性の高い合金である可能性が示唆されている。金属の中で最も高い硬度を持つ金属か、魔法力伝導性が当時最も高かった金属かで、研究者の意見が割れているらしい。資料が少ないから、よく分からないらしいがな。後者の候補としては今のところ、金と銅を物質量比七対三で混合した合金だったという説が出ている。相乗効果で魔法力抵抗の強さは純金の約七割……言うほどでもないな。ちなみにこの赤金は、去年共和国メルトナ州の遺跡で発見されたものが根拠らしい」


 などという、膨大なおまけがついてくる。ウェンディは辛うじて追いついていたが、ルイは完全に焼ききれたようで、机に突っ伏してぴくりともしない。これでもまだ魔道具知識としては序の口で、二日目に講義の内容が魔法陣の法則に及んだとき、ついにウェンディも音を上げた。


「内容を整理する時間をください」


 彼女は真面目に冬雪の講義を聴き、メモを取ってもいたのだが、膨大な量の知識を一度に詰め込んだため、限界に達したらしい。ルイは一日目で既にリタイヤしていたため、冬雪も一度演習時間を取ることにした。無理やり詰め込んだところで、定着しなければ授業の甲斐がない。


「なら今話した内容を覚えられているか試してやる」


 冬雪が言うと、ウェンディは書き込んでいたメモを伏せた。


「ウェンディ、魔法力伝導性が最も高い金属はなんだ」


「銀……いえ、白金です」


「トラップに引っかからなかったか、やるじゃないか。ではルイ、最も多くの魔道具で魔導体として使われる金属はなんだ」


「確か、銅でしたよね?」


「不正解だ、この場で答えるなら、正答は『分からない』だ」


 あまりにも意地の悪い問題に、ルイが閉口する。(くちばし)が出ているぞ、と笑って、冬雪は解説した。


「確かにさっき、銅がよく使われるとは言ったな。だがそれは、金、銀、銅の三種類の金属の内で最もよく使われる金属の話だ。他の金属を含めたら、実はまだ、最もよく使われる金属には言及していない」


「問題が良くないと思います」


「そう怒るな。ボクたちは工作員なんだ、これくらいの罠は、実戦の舞台ではいくらでも出てくる。いちいち腹を立てていたらきりがないぞ。むしろ逆手にとって、ボクを騙し返すくらいはできるようにならないとな」


 なお授業進度があまりにも遅かったため、トパロウルにはさっさと身を守る術を教え込めと指示されたのだが、まずは基礎知識がないとあとで事故になる、と言って冬雪は抗弁した。結局初歩的な銀魔力を二人に教え始めるまでに、一週間の時間を要した。

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